本研究課題の主題は,偏極多様体(特に反標準束で偏極されたファノ多様体)について,標準ケーラー計量と多様体の安定性(特に K 安定性)の関係を複素解析的な手法を用いて調べることにあったが,研究の進捗状況の遅延により,トーリック多様体に対象を制限し,広い意味で標準ケーラー計量と安定性の関係について調べることに主題を変更した.今年度行った研究内容の概要は以下の2つのことである. 1つ目は,トーリックファノ多様体のモーメント多面体の重心とその極双対多面体の不変量の関係に関する研究である.この問題について昨年度,論文にまとめ海外雑誌に投稿していたが,海外雑誌に受理された.モーメント多面体の重心は,対応するトーリックファノ多様体の二木不変量と対応していることが知られている.この研究では,極双対性の観点からモーメント多面体の極双対多面体に新たな不変量を導入し,モーメント多面体の重心との関係を示した.極双対多面体上で考える一つの利点は,モーメント多面体に比べると計算量が少なくなることである. 2つ目は,第2チャーン指標が正のトーリックファノ多様体の分類問題である.この問題は,トーリックファノ多様体の分類問題の一つであるが,上記のトーリックファノ多様体のモーメント多面体の考察から得た知見を応用できるのではないかという観点から取り組んできた.昨年度にトーリックファノ多様体の分類と Polymake を用いて,該当する多様体が射影空間のみであることを示し,一般次元でも該当する多様体が射影空間のみであるという予想を提示した.今年度は,その予想の解決に向けて,佐藤拓氏(福岡大学)と須山雄介氏(大阪市立大学)と議論を行ってきた.一定の理解を深めることができたが,当初見えていなかった問題点も出てきて,解決には至らなかった.
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