研究課題/領域番号 |
17K05241
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
川村 一宏 筑波大学, 数理物質系, 教授 (40204771)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 等長写像 / Hochschildコホモロジー |
研究実績の概要 |
前年度に引き続いて、関数空間の等長変換に関する研究を行った。特に円周上の連続微分可能関数空間上のいくつかのノルムに関する等長変換を,荷重合成作用素あるいはその変形によって特徴づけることができた。昨年度得られていた一般のリーマン多様体上の連続微分可能関数空間に対するBanach-Stone型定理は, 関数の正則性を保つ等長変換に対して得られている。これに対して底空間が円周である場合には、正則性の保存という仮定を置かず、より自然な形の定理を得た。 次にリプシッツ環の連続Hochschildコホモロジーに関する研究を行った。多様体上の連続微分可能関数空間の,連続Hochschildコホモロジーに関する大域次元は無限大であることが古典的に知られている。リーマン多様体上の標準距離に対するリプシッツ関数環に対して同様のコホモロジーを考察し、大域次元がやはり無限次元であることを証明した。コンパクトリーマン多様体上の標準距離に関するリプシッツ環に対し、de Leeuwの古典的方法を拡張して、”方向の空間”に類似のコンパクト空間(ただし距離化不可能)を構成し、その上の連続関数環を係数加群とするリプシッツ環のHochschildコホモロジーが無限階数を持つことを示した。一方係数加群を底空間上の連続関数にとると、1次元コホモロジーは消えることを示すことができる。これらの結果はリプシッツ環はコホモロジーに関して連続微分可能関数よりも強い意味での無限次元性を持つことを示している。 次にBanach環の”近似従順性”について考察した。従順性(amenability)の一般概念としての近似従順性にはいくつかのヴァリエーションが存在する。それらのヴァリエーションに対応してHochschildコホモロジーを用いて高次元近似従順性を定義できる。これらの概念の近似対角元の存在による特徴付けについて考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
等長変換の特徴付け定理としてのBanach-Stone型定理については、当初計画していたリーマン多様体上の連続微分可能関数空間における定理を得て、底空間の幾何との関わりを明示的に記述することができ、一定の成果を挙げることができた。またリプシッツ関数環のHochschildコホモロジーが、ある場合に無限階数を持つ一方、ある場合にはゼロであることを示し、今まで観察されていなかった新たな知見を加えることができた。さらに近似従順性の高次元版についてコホモロジーを用いた特徴づけを与えることができた。 しかしながら当初計画していた線形作用素の力学系に対する研究については順調な進展を見たということはできない。等長変換作用素の定める力学系のカオス性・位相推移性に関する研究は未だ予備的な考察にとどまっている。また一般射影極限上のシフト作用素が導く関数空間上の作用と底空間のかかわりについても明示的な結果が得られていない。 以上の様に、進展したテーマがある一方で予備的な段階にとどまっているテーマも残っており、全体としてはやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
荷重合成作用素の導く線形作用素の力学系のカオス的な性質をより細かい概念を用いて調べる。特にカオス的力学系の具体例を多く見出すために荷重合成作用素を用いる。 Banach-Stone型定理の一つのヴァリエーションとして、三浦毅氏によって創始された底空間のトポロジーとの関わりを明示するいくつかの定理がある。今後は底空間の次元との関わり・Banach-Stone型定理を成り立たせるためのテスト空間を見出すことを目標とする。またリーマン多様体上の微分形式の空間に対するBanach-Stone型定理を考察する。 一般化射影極限空間上のシフト作用素について測度論的な考察を進める。そのことによって考察の対象とできる関数空間が広がり、シフト作用素の導く荷重合成作用素の力学系的性質の研究を、より幅広い文脈で遂行することができる。また測度論的エントロピーと位相エントロピーの関係を記述する変分原理を一般化射影極限の枠組みで定式化し証明する。また昨年度Kennedy氏との共同研究で得られた記号力学系についてStrum列との関わりを明確に理解する。 Banach環の従順性についてさらに研究する。トーラス上のヘルダー連続関数環のweak amenabilityおよびその高次元版に関するJohnsonの研究は,積分を用いて-即ち関数の空間全体における大域的な情報を用いて-定義されるderivationの存在を示しており興味深い。この結果を一般のリーマン多様体上のヘルダー関数空間に対して拡張する。関数空間のホモロジーとコホモロジーは、対象の無限次元性に起因する障害のため満足の行く双対性が存在しない。このような欠点を補うような”近似ホモロジー”論として現在提案されているものを検討し、正しい定式化を探る。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度計画していた研究集会が中止されたため、旅費として計画していた支出が中止された。新たな研究集会を複数計画しており、それらの開催費として充当する予定である。また海外研究集会への参加を計画しており、渡航費を支出予定である。
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