研究課題/領域番号 |
17K05249
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
小林 毅 奈良女子大学, 自然科学系, 教授 (00186751)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | Heegaard分解 / 球面曲線 / 安定交点数 / 橋分解 / ニューラルネットワーク |
研究実績の概要 |
本研究では次のような目的を設定している.1)三次元多様体論に関する研究に曲線複体の幾何学に関する新しい視点を取り入れることにより,手法の精密化・ 展開をはかり,この方面の研究に新たな展開・応用を発見する. 2)結び目・絡み目の橋分解に関する研究,特にその同値性に関する研究の精密化・展開を行う. 3)低次元トポロジーにおいてこれまでに得られている様々な手法や成果を折り紙やデータ解析等具体的な対象物に適用し,低次元トポロジーが様々な分野に応用可能であることを示す. 1), 2)に関しては以前の張娟姫,井戸絢子との共著論文で定義した“keenなHeegaard 分解”に対応する概念を結び目・絡み目の一般化された橋分解に対しても定義し,Heegaard分解の場合と同様な結果が得られるかという研究を継続している.また伊藤昇、橋爪惠、船越紫、村井紘子と共同で行った球面曲線全体の集合から誘導される複体に関する研究を更に発展させて,球面曲線の組に対して“安定交点数”と呼ばれる量を定義した.これに関して小林住香と研究を行い,自明な球面曲線とRI, RIII同値な球面曲線で自明なものに変形する過程でその交点数がもとのそれより必ず2上がるものが存在することを示した.この結果について論文にまとめた.また張娟姫,小沢誠,高尾和人と共同で結び目の橋位置と橋分解についてこれまで明確に区別されていなかった2つの同値性に関してそれらの違いを明確にする定式化についての研究を行った. 3)に関しては,“与えられた結び目が自明であるかどうかを判定する”という結び目の自明性判定問題にニューラルネットワークを使うというアプローチに関する研究を行った.特にニューラルネットワークの学習に必要となる教師データの作成に関する研究を江田茜と共同で行った.ここで得られた結果については江田の修士論文としてまとめた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的1),2)に関してはこれまでHeegaard 分解に対して定義されていた定式化を一般の三次元多様体内の結び目・絡み目に対して拡張した定式化を与え,これに関してHeegaard 分解の場合と同様の結果が成り立つ,との感触を深めることができた.また伊藤,橋爪,船越,村井と共同で行った球面曲線全体の集合から誘導される複体に関する研究の定式化を利用して球面曲線の研究における新しい研究対象(安定交点数)を定義し,この概念の研究が非自明であることを示すことができた.また同時に,この延長としてより一般的な問題を設定した.この意味でこの分野に大きな寄与があったと評価している.また張娟姫,小沢誠,高尾和人と共同で結び目の橋位置と橋分解についてこれまで明確に区別されていなかった2つの同値性に関してそれらの違いを明確にする定式化を提案できたのはこの分野に重要な寄与ができる可能性を示していると評価している.また研究目的3)に関しては,(少なくとも研究代表者が知る限り)初めての「ニューラルネットワークを結び目理論に適用する研究」に着手することができたと考えている.以上の点によりここまでの研究は「おおむね順調に進展している」と評価した.
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今後の研究の推進方策 |
張,井戸との共同研究でHeegaard 分解に対して定義された,“keenなHeegaard 分解”の概念の類似概念を結び目・絡み目の一般化された橋分解に対しても定義したがそれに関する研究を引き続き行う.また球面曲線全体の研究に関しては,「安定交点数がもとの球面曲線の交点数よりもいくらでも大きなものが存在するか」という具体的な問題が設定できたので,これについて取り組んでいきたいと考えている.折り紙の研究に関して,折り紙研究グループとの情報の交換を行うなど研究のフィールドを広げてゆくことを考える.特に幾何構造の観点から新しい折り紙の構成方法を探してゆきたい.“ニューラルネットワークを結び目理論に適用する研究”については,教師データの作成の提案はできたが,ここからニューラルネットワークの学習に使える大量の教師データを作ること;本研究で用いるニューラルネットワークの構造の設計;結び目の自明性が判定できたとして,自明と判定された結び目を実際にほどく過程を与えること等この先取り組むべき課題が数多くあるのでこれに取り組んでいきたい.同時に機械学習における強化学習,敵対的生成ネットワークの理論など最近の成果についても情報を収集し結び目理論への応用などを探ってゆく.
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