研究実績の概要 |
曲面Σの基本群πからリー群Gへの表現全体の空間Hom(π,G)には群Gが共役により作用する。この作用による幾何学的不変式論の意味での商空間Xを指標多様体という。この指標多様体を、表現の像が離散群になる部分とそうでない部分に分割すると、前者はΣのG構造の変形の空間とみなすことができる。特にGがSL(2,C)の場合は双曲幾何構造の変形空間であり、重要な研究対象である。また、指標多様体には曲面Σの写像類群が自然に作用し、この作用の複雑さによっても指標多様体は2つに分割される。これら2つの関係は未解明な部分が多い。 上記のSL(2, C)の離散部分群はクライン群と呼ばれる。平成29年度においては、2つのSL(2, C)の要素によって生成されるクライン群のヨルゲンセン数の実現問題の研究を行った。ヨルゲンセン数はクライン群のある種の複雑さを表しているとみなすことができ、1以上の実数になることが古典的に知られていた。しかし、どのような実数がヨルゲンセン数の値になり得るのかについては、佐藤宏樹氏らの先駆的な研究以外にはあまり行われておらず、未解明となっていた。本研究代表者は、学習院高等部の山崎亮介氏とともにこの問題を解決し、実際1以上の任意の実数がヨルゲンセン数として実現されることを示した。用いた方法を簡単に説明すると、上で述べた指標多様体における離散群に対応する部分集合の解析を、対角スライスと呼ばれる部分集合において詳細に行うことで、1以上4以下のヨルゲンセン数の実現問題を解決し、4以上の場合についてはライリースライスと呼ばれる指標多様体内の別の部分集合に関する考察により解決した。また、関連した計算機実験も行い、今回与えたもの以外の実現方法がさらに多く存在することを予想している。
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