研究実績の概要 |
可微分 4 次元多様体のシャドウとは,大雑把に述べるとその多様体の局所平坦な 2-骨格のことをさす.シャドウの閉近傍の境界は 3 次元多様体となるため,シャドウにより可微分 3 次元多様体,4 次元多様体双方を組合せ的に表示することができる.シャドウにより記述される多様体の構造は,とりわけ 3 次元双曲幾何学と相性が良いことが特徴的である.各 3 次元多様体,4 次元多様体が許容するシャドウの最小頂点数をその多様体のシャドウ複雑度とよぶ. 本研究では,シャドウ複雑度が小さい 3 次元多様体,4 次元多様体の分類とその性質の考察を行うことを目標にしている.本年度は,直江央寛氏との共同研究において,シャドウ複雑度が 2 以下である非輪状 4 次元多様体で境界が 3 次元球面であるものは標準的な 4 次元球体と微分同相であることを証明した. 非輪状 4 次元多様体で境界が 3 次元球面である 4 次元 2 ハンドル体で標準的な 4 次元球体と微分同相でないものが存在すれば, 直ちに 4 次元可微分ポアンカレ予想の反例を与えることから,この問題は非常にナイーブで重要な問題であるが,この問題に対するシャドウ複雑度に応じた検証という研究の方向性を確立できたことになる. この他,Sangbum Cho 氏, Arim Seo 氏と共同でトーラス組み紐と (1,1)-結び目に関する論文, Sangbum Cho 氏, Junghoon Lee 氏と共同で 3 次元球面の Heegaard 分解に付随する原始円盤複体に関する論文を執筆し arXiv で公開し,定期刊行専門誌に投稿中である.また, 石井一平氏, 石川昌治氏, 直江央寛氏と共同で正フロースパインと接触構造に関する研究を進めた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シャドウ複雑度が 2 以下の非輪状 4 次元多様体について,期待通りの結果を得ることが出来た.シャドウ複雑度が 0 の場合, シャドウ自身が 1 点に崩壊可能であったのに対し, シャドウ複雑度が 1 或いは 2 であるシャドウの中には可縮だが 1 点に崩壊可能ではないものが多く存在するため,状況は格段に複雑であった. しかし, この状況においても多面体のトポロジーに関する考察および絡み目のデーン手術に関する既知の深い事実 (Property R) を駆使することにより難点を克服することができた. シャドウ複雑度がより高い多様体に対する同様の問いについては今後の課題としたい.
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