研究課題/領域番号 |
17K05266
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
日合 文雄 東北大学, 情報科学研究科, 名誉教授 (30092571)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 関数解析 / 作用素 / 行列解析 / 作用素平均 / 量子情報理論 |
研究実績の概要 |
行列・作用素解析の研究と量子情報への応用的研究を行い,所定の成果を得た. J. Lawson(米国), Y. Lim(韓国)との共同研究により,最近発展している順序をもつ距離空間上の確率測度に対する重心写像の研究の一環として,確率測度の空間上の確率順序(stochastic order)について研究した. Y. Limとの共同研究により,n×n 正定値行列のなすリーマン多様体(負計量空間の典型例となる)上のリーマン計量に関して固有値関数とシンプレクテイック固有値関数がリプシッツ連続であることを示し,さらにこの多様体上の確率測度に対するCartan重心(幾何平均の確率測度への一般化)に対する対数マジョリゼーションを示した. 瀬尾(大阪教育大), 和田(木更津高専)との共同研究により,多変数の作用素平均に対する安藤-日合型の不等式について考察した.安藤-日合の不等式は1994年に2変数の重み付き作用素幾何平均に対して証明された後,2014年に和田によってこの不等式を満たす2変数の作用素平均の特徴付けが与えられた.瀬尾,和田との共同研究では,近年発展が著しい n変数の作用素平均に対して,従来型でけでなく補完型さらに逆向き型などの幾つかの形式の安藤-日合型不等式を系統的に示した. 以前に,量子情報で有用な相対エントロピーやレニィ・ダイバージェンスを一般化した量子f-ダイバージェンスについて,M. Mosonyi(ハンガリー)と有限次元のヒルベルト空間の設定で共同研究した.その継続研究として,フォンノイマン環の設定での量子ダイバージェンスを研究し,単著の連作論文をJ. Math. Phys. に出版した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成30年度に予定した3つの研究項目のすべてについて,当初の計画通りまたはそれ以上に研究が進展した. フォンノイマン環の設定での量子f-ダイバージェンスに関する研究は,首尾良く合計57ページの連作論文として数理物理の一流誌J. Math. Phys.に出版された. 行列・作用素の作るNPC空間(負計量空間)と呼ばれるリーマン多様体上のCartan重心さらに一般の作用素平均に関するY. Limとの共同研究は当初の計画以上に進展しており,下記の平成30年度の研究成果にある共著論文1編に加えて,現在投稿中の論文が2編ある. 多変数の作用素平均に対する安藤-日合型の不等式に関する瀬尾,和田との共同研究でも.当初の計画以上の成果が得られた.日本数学会2018年会の函数解析学分科会で「多変数の行列・作用素平均」と題して特別講演を行った.さらに.レニィ型の量子ダイバージェンスに関連した対数マジョリゼーションの研究で単著論文を発表したが,その継続研究として,安藤-日合型の不等式を作用素平均より一般の作用素パースペクティブに拡張する論文を瀬尾,和田と共著で現在執筆中である.
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今後の研究の推進方策 |
平成30年に実施したvon Neumann環上の標準型と極大型のf-ダイバージェンスの一般論の研究の続きとして,フォンノイマン環上での量子ダイバージェンスのリバーシビリティ(復元可能性)問題を研究する.将来的には,フォンノイマン環の場合に拡張した設定で,量子情報の分野で関連する問題についての応用的研究を目指す. Y. Lim(韓国)と継続中の共同研究で,距離空間上の確率測度の設定で,Wasserstein距離について縮小性をもつ重心写像の下で,距離空間に値をもつ確率変数に対する条件づき期待値,エルゴード定理,マルチンゲール収束,大偏差原理などの一連の確率解析の研究を行い,現在論文を投稿中である.この方向での研究を継続するとともに,確率測度に対する一般の作用素平均の構築と関連する作用素不等式の研究を目指す. 瀬尾(大阪教育大),和田(木更津高専)との安藤-日合型不等式の共同研究については,多変数の作用素パースペクティブの場合に考察を拡張したい.
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)1万円余りの残額なので,次年度の旅費に繰り入れることにした. (使用計画)次年度の旅費に追加して使用する.
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