研究課題/領域番号 |
17K05268
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
木田 良才 東京大学, 大学院数理科学研究科, 准教授 (90451517)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 離散群 / 軌道同値関係 / 変換亜群 |
研究実績の概要 |
作用素環論において、中心列が果たす役割は大きい。その端緒は、フォンノイマン環論を創始した Murray-von Neumann の論文(1943)にまで遡る。Effros(1975)は、群フォンノイマン環が中心列をもつための必要条件として、群の内部従順性を導入した。可算離散群が内部従順であるとは、その群環が(l^1の意味で漸近的な)中心列をもつときをいう。例えば、群自身が中心列をもてば、その群は内部従順である。群環に対するこのような関数解析的な性質を, 種々の設定下で代数的な性質として特徴付けることは、フォンノイマン環論やエルゴード群論における挑戦的な課題であり、その成功がもたらす影響は極めて大きい。Schmidt(1987)は、任意の内部従順群に対し、その標準確率空間への自由保測作用で、付随する充足群が中心列をもつようなものを構成できるか、という問い(シュミットの問題)を掲げたが、この問いは未解決である。
今年度の研究では、内部従順群の中でも、その群環がある意味において無限の中心をもつようなもの(正確には、無限の FC-radical をもつような群)を考察し、そのような群がシュミットの問題で要求されている性質(シュミット性)をもつことを示した。一般の内部従順群に比べ、このような群は代数色の強い中心性をもっており、いかにこの代数色を関数解析的性質に置き換えていけるかが、シュミット性を証明できる群のクラスの拡大に向けた今後の課題である。例えば、可算集合への従順作用から構成されるリース積群は、シュミット性をもつことが示されておらず, これは考察に値する問題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シュミットの問題の解決に向けては、特別な内部従順群に対しシュミット性を示し、そのような結果を積み上げていくことで、解決の糸口を探りたいと考えている。無限の中心をもつ群に対しシュミット性を示すのは難しくない一方、無限の中心をもつという性質を少し緩め、無限の FC-radical をもつ群に対しシュミット性を示そうとすると、途端に技術的な困難が生まれる。今年度の成果はこの困難を克服するものであり、今後のシュミットの問題の攻略においても有効な技術を与えるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
可算集合への従順作用から構成されるリース積群は、内部従順であるものの、シュミット性が示されていない。その原因は、可算集合への作用の従順性を、確率測度空間への群作用の枠組みで捉え切れておらず、その従順性から期待できる作用の構成が未だ達成されていないことにある。超積をはじめとする、超越的な手法による構成の可能性を探りたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
所属大学における教育等の業務により、情報収集のための出張の機会を得ることが、当初の予定よりも難しくなったため。次年度使用額は出張費用に充てる。
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