研究課題/領域番号 |
17K05271
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
竹縄 知之 東京海洋大学, 学術研究院, 准教授 (70361805)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | パンルヴェ方程式 / 力学系 / 初期値空間 / 対称性 |
研究実績の概要 |
今年度はまず,有理多様体のピカール群上の与えられた作用に対して,それを実現する力学系を構成する簡単な公式を発見した.この公式は力学系が同型ではない場合や,双有理でない場合にも成り立つ一般的なものである.また,ルーマニア物理核工学研究所の A. S. Carstea 氏,ノーザンコロラド大学の A. Dzhamay 氏と協力して,可積分力学系の非自励化について研究した.具体的には,有理楕円曲面の自己同型の簡潔な表示である Quispel-Roberts-Thompson 写像を非自励化することにより,離散パンルヴェ方程式の新たな簡潔な表示を得た.この手法においては,一つのQRT写像から複数のタイプの異なる離散パンルヴェ方程式が導かれるということ,また,QRT写像が簡潔な表示を持つことを受け継いで,結果として得られる離散パンルヴェ方程式も簡潔な表示を持つことに特徴がある.これらの結果を論文としてまとめ,Journal of Physics A : Mathematical and Theoretical に投稿し掲載された.なお,この論文は IOP publishing により,IOP select として採択され,出版から1年間オープンアクセスとなった. また,高次元のパンルヴェ方程式の初期値空間について,ガルニエ系を含むいくつかの代表的な例について計算し,関連する定理などとともに論文としてまとめられるように準備を進めている. これらの研究成果をまとめ,発表するために6月にプラハ,1月にサンディエゴの学会に参加し,同じく1月にノーザンコロラド大学を訪問した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で述べたように,幾何学的な情報から離散力学系を復元する方法を確立し,それを自励的な方程式の非自励化に応用することで,簡明な表現を持つ離散パンルヴェ方程式を構成する方法を確立し,それを論文としてまとめ,専門の論文誌に掲載した.これは本研究の初年度に当たる本年度の計画どおりである.また,もう一つの主たるテーマである,初期値空間の方法の高次元化においても,既にいくつかの例で計算を進めることができたため,来年度以降の研究も計画通り進めることができるものと考えられる. いじょうのことから,「おおむね順調に進展している」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
今後はまず,高階可積分力学系の初期値空間および非自励化について研究する.これについては山田泰彦による最近の$q$-ガルニエ系の研究や,Rainsらによる楕円差分ガルニエ方程式の研究が参考になる.これらの研究は線型差分方程式のコネクション保存変形に基づくものなのでLax構造は分かるが,初期値空間の構造は不明である.初期値空間については,いくつかの例については本年度より計算を進めている. また,タウ函数の幾何学的特徴づけについて調べる.離散パンルヴェ方程式のタウ函数はGrammaticos-Ramaniらによるものと,津田らによるものの2種類があり,十分に理論が確立していない.申請者は,有理曲面の理論からは前者の方が自然であると考えているが,ソリトン理論や漸近級数解とは後者の方が相性が良いようである.まず前者の立場で幾何学的な理論を確立した上で,後者との関係を明らかにしたい.また,ローラン性との関係についても調べたい. 並行して,離散パンルヴェ方程式の対称性による分類について研究する.特に楕円差分パンルヴェ方程式を対称性の観点から分類したい.その際,超幾何函数解についても併せて調べる必要がある.先行研究によると,離散パンルヴェ方程式の超幾何函数解のタイプは方程式の対称性と対応しているはずなので,楕円差分パンルヴェ方程式の系列の解として,楕円超幾何函数の系列が現れることが予想される.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度にパソコンを購入する予定であったが,想定よりも旅費がかさんだため,パソコンは次年度に購入することとした.
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