本研究課題は昨年度までの予定であったが,コロナ禍で研究成果の発信が十分にできなかったことから本年度まで期間を延長した.ただし,当然であるが研究も継続して行った.特に本年度は有理楕円曲面上のファイバー構造を保つ力学系である Quispel-Roberts-Thompson 写像の初期値問題について,上海大学および東京海洋大学の博士後期課程学生である Xing Li 氏と共同で,新たな解法を提案した.この解法では,本課題の初期に非自励化において扱った楕円トーラスのP1×P1への埋め込みについて,そのパラメーターおよび曲面上の因子類の楕円トーラスへの引き戻しを楕円積分を用いて計算することを利用した.なお,この埋め込み自体はもともとPainleve 方程式の統一した記述を作るために Kajiwara-Noumi-Yamada によって提案されたものである.この結果を Solving the Quispel-Roberts-Thompson maps using Kajiwara-Noumi-Yamada's representation of elliptic curves というタイトルでプレプリントとして公開するとともに,専門誌に投稿した.また,数式処理システムを用いた実装を公開した.本年度も対面での学会や研究集会はほとんど開かれなかったが,国際学会にオンラインにて研究成果を発表した.また,昨年度投稿していた4次元 Fuji-Suzuki-Tsuda 系の初期値空間の構成に関する論文がRIMS Kokyuroku Bessatsuより出版された.
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