研究課題/領域番号 |
17K05272
|
研究機関 | 公立小松大学 |
研究代表者 |
田村 博志 公立小松大学, 生産システム科学部, 教授 (80188440)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 量子光学 / 散逸系 / マスター方程式 / Dicke Model / 熱平衡への緩和 / 完全正写像 |
研究実績の概要 |
本研究課題は量子光学におけるスクイーズド光発生の制御に関連して、散逸効果を記述するマスター方程式を制御理論の立場から数学的に研究することを目的とした。 当初の方針は、複合調和振動子系の制御の議論から始める予定であった。しかし本研究課題全体を考えるとき、「制御」と「散逸」という2つの重点のうち散逸の取り扱い方にある程度の目途を付けることが先決であると考えた。 そこで先ず、時間依存しない調和振動子のマスター方程式にリンドブラッド型の散逸項を加えたものを扱った。この発展方程式の生成元に現れる2種の作用素(ハミルトニアンとの交換子と散逸項)の間の交換関係を基に生成元の固有値問題の解を与えた。この方法は先行研究に比べ、見通しの良さという長所がある。 次に、この方法の応用として無限成分スピンと調和振動子の結合系を論ずる Dicke 模型に散逸効果を加えた系を扱った。スピンと調和振動子の一種の組み換えによって散逸項なしの場合と同様に「衣付き」スピンと「衣付き」光子の分離が可能であることを示した。ここで、組み換えに用いる変換として数学的に扱いやすく物理的意味も明確な完全正トレース保存作用素が現れることを示した。これによってマスター方程式の解の構造が明らかとなり、この系が物理的には不安定であることを示し、その崩壊過程をスピンの漸近挙動として具体的表現を与えた。さらに、このモデルは散逸系のシンクロナイズド現象の現れる一つの実例を与えることを見た。この結果は論文として発表された:Open Systems and Information Dynamics, 27(3), 2050012 (2020) また、複合調和振動子系の散逸を扱うために、上の方法を代数的に発展させ、生成消滅作用素の2次式で表される作用素の代数と行列群の対応を利用する手法を試みている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度から2年度にかけて体調を崩したため、上記5に記述した Dicke model の解析に予定以上の時間を要した。しかし、複合調和振動子の開放系の取り扱いに進展があった。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題を遂行する上でのこれからの課題として次の3点が挙げられる:1)複数の調和振動子の結合系の散逸の一般論。2)スクイーズド光などを扱うためのハミルトニアンの一般化。3)制御のために生成元に時間依存を与えること。 上記のうち、1)については基本的な枠組みが明らかになった。2)については、ハミルトニアンの取り換え自体はヒルベルト空間のユニタリ変換で記述できるが、対応する散逸項の変換についてはリー環の観点を用いて整理する方向で考える。3)に関しては、有限個の生成元の時間依存する線形結合を生成元とする発展方程式にポントリャーギンの最大値原理を適応する方針である。 この延長年度では、1)を論文に纏め、2)に目途を付けた後、3)に取り組みたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成31(令和元)年度は、研究機関の変更に伴う繁忙や感染病の流行による出張の中止が重なり、令和2年度も感染症の蔓延の為、出張などが出来ない状況であり、次年度使用額が生じた。 今後も、引き続く感染症の影響により外国出張などが難しく明確な使用計画を立てることは困難な状況である。
|
備考 |
10.研究発表[雑誌論文]の原稿を掲示した。
|