生物の個体数変動に影響を与える変数として,年齢も含めた一般のサイズを考えるのは自然である。一方で,生物の生息域内での空間的広がりを考慮する必要がある場合も多い。このような理由から,サイズ構造と空間への拡散を考慮した生物の個体数変動に関する数理モデルを取り扱うことを目的とする。 2021年度の研究では,栽培による農業や養殖などの水産業への応用として,年齢構造の個体数変動モデルに従って変動する個体群の収穫問題で,利益を最大にするという最適収穫モデルを扱った。これは栽培や養殖では新生個体数を人工的に供給して,年齢ごとの収穫量を決め,これら2つの量を制御することで,収益を最大にする最適制御問題である。収益を表す関数は価格に対して非線形である問題を取り扱った。これは経済学的な理由から自然な性質である。また,通常の最適制御問題では,制御関数には有界性を仮定するのに対し,ここでは制御関数に有界を仮定しない。得られた結果は,国際雑誌に論文を発表した。ここでは,元のモデルを積分した新たな方程式を導入し,有界変動関数の枠組みで制御関数を導入することで数学的に扱うことを可能にした。この論文では,一般の測度値の最適制御の存在を示した。今回の研究は,国際共同研究で行われた。また,最適制御であるための必要条件をラグランジュの未定乗数法との関係から考察し,Diracのデルタ関数で表現される制御が最適制御になり得ることを示した。この結果は,現在投稿中である。 今回取り扱った個体数変動モデルに対する結果を元に,サイズ依存のモデルや拡散を伴うモデルへの拡張を考えることが可能となりより現実的なモデルへの発展が期待できる。
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