研究課題/領域番号 |
17K05277
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小沢 登高 京都大学, 数理解析研究所, 教授 (60323466)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 作用素環論 / 関数解析 / 群論 / Banach空間論 |
研究実績の概要 |
2019年度はBannonシエナ大学教授、Marrakchi学振外国人特別研究員とともにvon Neumann環論に関する共同研究を行った。その成果として、von Neumann環論で主導的立場にあるUCLAのPopa教授が1986年に提出した有名な予想を肯定的に解決した。これは充満性が余従順という良い条件を満たす部分環に遺伝することを主張するものである。Popa教授はそうしたことを有限型の因子環に限って予想したのであるが、この共同研究ではより強く任意の型の因子環に対して証明することに成功した。証明の過程では部分環に対する余従順性の新たな特徴づけを得ている。これはAnantharaman-Delarocheストラスブール大学教授が1995年に行った余従順性についての先駆的な仕事以来懸案の未解決問題として残されていたものである。即ち、1995年のAnantharaman-Delaroche教授の論文には「余従順性」と名付けるにふさわしい条件がいくつか挙げられていたが、今回の共同研究でそれらの条件が全て同値であることを証明した。この結果、余従順性が自然な概念であることがはっきりと認識され、さらなる応用につながることが見込まれている。実際、この共同研究では前述の成果の応用として、充満因子環へのコンパクト群作用は外部的なら自動的に極小的になるという驚くべき新現象を発見した。極小性は確認が難しいが多くの結論を導く重要な性質である。それゆえ極小性が、確認しやすくコンパクト群作用を考える際の標準的な仮定である外部性から自動的に従うというこの定理には大きな応用価値があるといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
項目「研究実績の概要」で述べた研究成果は論文"Full factors and co-amenable inclusions''として纏められ、格調高い専門誌である"Communications in Mathematical Physics"に掲載が決定済みである。このBannon教授、Marrakchi研究員との共同研究では四半世紀以上未解決であった重要な問題を2つ解決したほか、応用として予想外の新現象を発見しており、それを纏めた論文はvon Neumann環論への長期的な影響が見込まれる大きな貢献であるといえる。以上が研究が順調に進展した部分である。順調に進展しなかった研究は、Kalubaミツキェヴィチ大学教授と予定していた電子計算機を利用した実非可換代数幾何学に関する共同研究である。これは新型コロナウィルス感染症拡大のため、2020年3月に予定していたKaluba教授の長期京都滞在がキャンセルされたことによる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究計画は本来であれば2019年度で終了するはずであったが、新型コロナウィルス感染症拡大のため、2020年3月に予定していたKalubaミツキェヴィチ大学教授との共同研究を行うことができず、研究期間が延長されたものである。状況が許すなら、Kaluba教授を京都に招聘するか、研究代表がPoznanに出張するかして電子計算機を利用した実非可換代数幾何学に関する共同研究を行うつもりである。この研究には純粋数学的な側面と計算機による実装に関する側面の二つがあるが、研究代表が実装面に疎いため、共同研究者であり優秀なプログラマであるKaluba教授と共同研究を行うことになっていた。この共同研究では、理論面と実装面は別々のフェーズに分かれて行うものではなく、発見的かつ発展的に行われる共同作業となるため、理論サイドと実装サイドがある程度の期間ゼロ距離でやり取りを行う必要があるのである。新型コロナウィルス感染症が落ち着かないよう場合は、極めて残念なことであるが、インターネットを通じた共同研究に移行せざるを得ない。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年3月にKalubaミツキェヴィチ大学教授を京都大学に招へいして共同研究を行う予定であったが、新型コロナウィルス感染症拡大によりキャンセルされたため次年度使用額が生じた。状況が許すなら、2020年度中にKaluba教授を京都大学に招へいするか、研究代表がミツキェヴィチ大学(ポーランド)に出張するかして電子計算機を利用した実非可換代数幾何学に関する共同研究を行うつもりである。
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