本研究計画では以下のような研究を行った。理研の森研究員とともに、Banach空間の代数的構造が距離幾何学的構造からどれだけ復元できるかという研究を行った。特に、von Neumann環に対するTingley問題を解決した。Bannonシエナ大学教授、Marrakchi学振外国人特別研究員とともにvon Neumann環の充満性に関する共同研究を行った。特に、充満性が余従順な部分環に遺伝することを主張するPopa予想を解決した。トランプカードを混ぜ合わせるといった行為の数理モデルを吟味すると、ほとんど混じっておらず既存のパターンが残存する状態から十分に混じったほぼ無秩序な状態に極めて短時間で遷移するといった現象が見て取れる。このような相転移はカットオフ現象と呼ばれる。どのような確率過程においてカットオフ現象が観察されるかは興味深い問題である。この確率論の問題に関数解析学的アプローチを導入し、E. LubetzkyとY. Peresによるよく知られた定理の極めて簡明な証明を得た。これは「ラマヌジャングラフの上の単純ランダムウォークではカットオフ現象が起きる」という定理である。より一般の遷移的エクスパンダーグラフ上のランダムウォークでもカットオフ現象が起きるか否かは重要未解決問題として残されているが、新証明はこの問題についての新たな洞察を与えるものでもある。早稲田大学に出張して、戸松教授らと共同研究の打ち合わせを行った。最近のMarrakchi--Vaesの論文の結果を以下に拡張するかについての討議を行った。
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