本研究課題は、ランダム行列とランダム分割、およびそれらに関連した問題に対し、組合せ論および表現論の視点に基づいた研究を行うことを目的としている。最終年度である2022年度は、ランダム行列論の一部であるWeingarten calculusを用いた新しい結果を得た。量子情報理論におけるquantum marginal problemに関連する問題で、テンソル空間に作用する一様に分布するランダム・エルミート行列に対し、その部分トレースの確率分布について調べた。部分トレースの行列成分の積の期待値を、Weingarten calculusを用いて具体的に計算することができた。また行列のサイズが十分に大きいときの、大数の法則についても記述できた。以上はColin McSwiggenとの共同研究である。 本研究課題はコロナ禍による延長を含め6年間実施した。課題名の通り、ランダム行列とランダム分割に関する重要な結果をいくつも得ることができた。まず、ランダム行列、特にWeingarten calculusに関する研究として、次のような結果を得た。第一に、ユニタリ行列の基本的な直交関係式に戻りWeingarten calculusを再構築、その応用として行列積分に関する新しい評価式を得ることができた。第二は上記の2022年度の結果である。第三に、Weingarten calculusに関する入門的な文書をまとめることができた。 次に、ランダム分割に関する研究結果について述べる。対称群の正規化スピン既約指標の詳しい性質を調べたことと、それを用いたランダム・シフトヤング図形の大数の法則や中心極限定理を得ることができた。正規化スピン既約指標は、Kerov多項式およびStanley指標公式のスピン版を得たことで、大きく理解が進んだ。これらは本研究課題開始時の計画を上回り、大きく進展した。
|