研究実績の概要 |
昨年度Proceeding of Amer. Math. Soc. (2019) で発表した論文で次の命題を証明していた。「0<A≦Bなる行列A, B に対して、X, Y の調和平均がA, 算術平均が B であるような行列0<X≦Yがただ一組存在する。」この事実から「初等数学における数の2次方程式の根と係数の関係を行列に拡張する」発想を得た。その際、数の積に対応する演算を幾何平均 # とした。得た結果を可逆な行列に限って紹介する。 定理 0<A≦Bなる行列A, B に対して次のことが成立する。 (1) X # Y = A, X + Y = 2B, 0<X≦Y であるような行列 X, Y はただ一組存在し、それは X= B-(B - A) # (B + A), Y = B + (B - A) # (B + A) である。(2) S # T = A, S + T = 2B, 0<S, T であるような行列 S, T はすべて区間 [X, Y] にあり、2次方程式 SCS -2S + ACA = 0 を満たす。但し、C は B の逆行列である。(3) C の平方根を D, K = I- DAD と置くとき、S が (2) の2次方程式の解であるための必要十分条件は、QK=KQ をみたすK の値域の部分空間への直交射影 Q が存在し、S = YDQD + XD(I-Q)D. このとき、T = 2B-S も (2) の解である。(4) 上の(2)の2次方程式の解の個数が有限であるための必要十分条件は K の 0 でない固有値の重複度が全て 1 である。(5) 上の (3) とは逆に、一般の解 S から、広義積分(式は略)で X, Y を求めることができる。 国内の学会・研究集会や国際研究集会が全てCOVID19の為中止になり成果の発表の機会が失われため、研究期間を延長せざるを得なかった。国際協力の一環として、当研究課題に関連したインドCochin University of Science and Technology での博士号の論文審査を務めたこと、日本数学会発行「数学」に記載するため B. Simon ‘Loewner’s Theorem on Monotone Matrix Functions’ (Springer 2019) の書評を書いたことを報告したい。
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