M.Bou\'e,P.Dupuisによって見出されたBrown運動の有界汎関数に対する変分表現(1998年)について学生とともに学んだ内容に,2021年度に得た変分表現の新たな応用を加えて論文にまとめ,学術誌上で発表した.Bou\'e--Dupuisの変分表現は近年,N.BarashkovとM.Gubinelliにより場の量子論におけるいわゆるΦ^4_3模型の解析に効果的に用いられた(2020年)ことから当該分野の研究者達の関心を惹いており,本論文では従来の結果と比較して,汎関数に対して必要最小限に近い仮定の下で変分表現の成立を導いているため,より多くの応用が見出されると期待できる.
Brown運動はスケーリング則や時間逆転といった,確率法則の意味での様々な不変性をもつことが知られている.2021年度の研究では,雑誌Stochastic Processes and their Applications(第146巻)に掲載された研究成果に基づき考察を進め,時間逆転との可換性を有する新たな不変性を見出した.この不変性は非適合型の経路変換を用いて記述され,指数汎関数を非因果的要素にもつ.Brown運動は確率論において古くから考察・研究されている基礎的かつ重要な対象物であり,N.Wienerによるその数学的構成まで遡っても100年近くの歴史をもつが,今回得られた不変性は従来知られていなかったもののようである.なお,上述の経路変換そのものも,対合であるなどの興味深い性質をもつ.これらの結果をまとめた論文原稿を学術誌への投稿に向けて準備し,“Invariance of Brownian motion associated with exponential functionals”との論文題目の下,まずはプレプリントサーバarXiv.org上で公開を行った.
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