研究課題/領域番号 |
17K05293
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
河邊 淳 信州大学, 学術研究院工学系, 教授 (50186136)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 非加法的測度 / 非線形積分 / 積分汎関数 / 摂動性 / 積分汎関数の収束定理 / Choquet積分 / 分布型積分 / 分割型積分 |
研究実績の概要 |
非加法的測度による積算概念である非線形積分の中でも,Choquet積分,Sipos積分,Sugeno積分,Shilkret積分などの分布型積分は,被積分関数の減少分布関数を用いて定義されるので,関数列の測度収束性と相性が良い.また,応用面でも,期待効用理論,可能性理論,証拠理論などで広く利用されている.2018年度はこれら分布型の非線形積分に対する有界測度収束定理とVitaliの測度収束定理を摂動性をもつ非線形積分汎関数に対して定式化し,個別の積分型によらない統一的な理論展開を行った.具体的な研究成果は以下の通りである. 1.摂動的,上縁連続,水平劣加法的かつ生成的で,その生成器が極限保存的である積分汎関数に対してVitaliの収束定理が成立するための必要十分条件は非加法的測度の自己連続性であること示した. 2.摂動的かつ生成的で,その生成器が極限保存的である積分汎関数に対して有界測度収束定理が成立するための必要十分条件も非加法的測度の自己連続性であることを示した. 一方,有限な測度空間では,可測関数列の収束に関するLebesgueの定理とRieszの定理により,測度収束する関数列をp乗した関数列は測度収束する.しかし,非加法的測度に対しては,たとえそれが劣加法性などの強い擬加法的性質を満たしていても,この事実は一般には成立せず,上記の研究成果の直接の応用として,p乗関数列の積分収束定理は導けない.実際,p乗関数列に対する積分収束定理は今までほとんど議論されてこなかった.そこで,2018年度は,非線形積分汎関数の諸性質(摂動性,生成性,初等性,強単調性,上縁連続性,測度切断性,水平劣切断性など)のべき乗演算に対する頑健性を示し,その結果として,p乗関数列に対する種々の収束定理を確立した.また,応用として,非加法的測度を用いて定義されるLorentz空間の完備性を示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画「一様可積分な関数列に対する非線形積分の収束定理(Vitaliの定理の非線形化)」については,論文「The Vitali convergence in measure theorem of nonlinear integrals」がFuzzy Sets and Systemsに掲載予定(印刷中)である.また,今までほとんど議論されてこなかった測度収束する関数列のp次モーメントの収束定理に関しても,積分汎関数の諸性質のべき乗演算に対する頑健性を利用して議論可能であることを見出し,現在,関連結果を含めた論文を執筆中である.さらに,分布型非線形積分の収束定理の統一的理論展開には積分汎関数の摂動性が有効に機能することを数理経済学分野の研究者に広く周知するために,今まで得られた主要な結果をまとめたサーベイ論文「A unified approach to convergence theorems of nonlinear integrals」をSpringer社発行のAdvances in Mathematical Economicsに発表した. 他の研究計画についても予備的及び部分的な考察がおおむね順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
申請時の研究計画・方法に基づき研究を推進する予定であるが,分布型積分の収束定理についてはさらに深い研究成果が得られつつあることも鑑み,2019年度は下記の課題を重点的に研究する. 1.非線形積分のなかでも特に重要なChoquet積分の優収束定理を,関数列が概収束,測度収束,概一様収束する場合に再検討し,それぞれの収束性に関して優収束定理が成立するために非加法的測度に課すべき必要十分条件を見出す(従来は十分条件しか知られていない). 2.Semicopulaという2項演算を用いて定義されるsmallest semicopula-based universal integralが定める積分汎関数が摂動的となるためにsemicopulaに課すべき条件を見出し,われわれの結果を応用し,smallest semicopula-based universal integralの収束定理を確立する. 3.Lehrer積分(凹積分)などの分布型積分の収束定理に関して本格的な検討を開始する.
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