研究課題/領域番号 |
17K05305
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
北 直泰 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 教授 (70336056)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 非線形シュレディンガー方程式 / 解の減衰評価 / 解の漸近挙動 |
研究実績の概要 |
非線形シュレディンガー方程式において、ゲージ不変な非線形項に含まれる係数が実数(保存系モデル)ではなく複素数になった場合(エネルギー散逸モデル)について"小さな解"の時刻無限大での漸近挙動を調べた。この結果は中村能久氏(熊本大学)との共同研究である。ここでは、特に非線形項が劣臨界ベキを持つ場合を取り扱うことにして、解の漸近挙動に非線形項の影響が強く残る結果を得ることができた。既存の結果として、Kita-Shimomuraの理論がある。しかし、彼らの結果では「非線形項のベキが臨界のものよりも少し小さい」という曖昧な仮定が課されている。そこで我々は「非線形項のベキをどこまで下げて解の漸近挙動を得ることができるのか」という課題を設定し、問題の解決に取り組んだ。結論として次の2つを得た。①解のL^∞ノルムの減衰評価については、非線形項のベキを2.7付近まで下げて証明可能であること。②解の漸近挙動については、非線形項のベキを2.9付近まで下げて証明可能であること。証明の手法はKita-Shimomuraの方法をより簡潔にしたものを採用している。解の減衰評価を得るときに、ある常微分不等式を解く必要が生じるが、Kita-Shimomuraの方法では背理法に背理法を積み重ねるような複雑な議論を用いていた。しかし、とある研究集会における砂川秀明氏(大阪大学)の助言から、この常微分不等式をもっと簡単に解く方法を知ることができたので、それを適用することで簡潔に証明することに成功したのである。今後の課題として、非線形項のベキを1付近まで下げて解の漸近挙動を特定していくことが残っている。これについてHayashi-Kaikina-Naumkinの方法が参考になると思われるが、彼らの方法では初期データに強い正則性と"0から離れている"という仮定が必要になる。これを緩めることに専念しなくてはならない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まだ雑誌掲載に漕ぎ着けてはいないが、H29年度の研究実績の他にも中国の研究者Li Chunhua氏(延辺大学)との共同研究、および中村能久氏(熊本大学)との別の共同研究がすでに論文化されている。いずれも非線形シュレディンガー方程式の解の漸近挙動に関する結果である。特にLi氏との共同研究については、H29年度に科学研究費によって中国に出張できたことが良い影響をもたらしてくれたように思われる。上記の共同研究の他に清水一翔氏(神戸大学研究員)との研究で初期データがδ関数からなる解の挙動を調査中である。更に、個人的に解の爆発に関する研究(空間1次元)についても順調に進展している。 うまく克服できていない課題として、「大きな初期データに対する解の漸近挙動の特定」が挙げられる。空間が1次元の場合には下村明洋氏(東京大学)との共同研究で解の漸近挙動を特定できているのだが、空間が2次元以上の場合が未解決である。
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今後の研究の推進方策 |
H30年度中にLi氏との共同研究および中村氏との共同研究(いずれも解の漸近挙動に関する研究)を雑誌掲載し、研究成果を公表する。清水氏との共同研究(δ関数初期値の解に関する研究)を論文化する。また、解の爆発に関する研究についても論文化する。光ファイバー工学において登場する非線形シュレディンガー方程式について解の挙動を捉えることが本科学研究費による研究の主目的である。この方程式の形が数理生物学で登場する反応拡散方程式と似ているので、反応拡散方程式の研究者と意見交換する場を設ける。そのためにH30年度中に京都大学数理解析研究所にて「反応拡散方程式と非線形分散型方程式の解の挙動」と題した共同研究(グループ型)を開催する。 H31年度以降は、爆発解の存在証明、および大きな初期データに対する解の漸近挙動の特定について「空間次元が2以上」の場合で研究を進めていきたい。既存の結果では空間次元が1の場合でしか使えない議論を用いているので、全くもって新しい手法を開発する必要がある。国内外の研究者と意見交換を行う必要があるし、自分の研究を公表する場において「残されている課題」を必ず紹介するように心がけたい。
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