研究課題/領域番号 |
17K05309
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研究機関 | 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工学群) |
研究代表者 |
土田 兼治 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工学群), 総合教育学群, 准教授 (80466523)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 対称マルコフ過程 / 加法汎関数 / 大偏差原理 |
研究実績の概要 |
レヴィ型の対称マルコフ過程を含む広いクラスで、グリーン緊密的な加藤クラスの測度から生成される加法汎関数の大偏差原理を研究してきたが、連続部分、ジャンプ部分の結合についての大偏差原理は、Zhen-Qing Chen氏との共同研究によってほぼ一般的な形で解決され、雑誌に掲載された。そのときの査読者の指摘と我々の発展的な考察より、拡大ディリクレ空間からグリーン緊密的な加藤クラスの測度が作る二乗可積分関数空間への埋め込みがコンパクトであることを関数解析学的な方法でかなり一般的な設定のもとで証明することができた。コンパクト埋め込みについては桑江一洋氏と全く異なるアプローチからも共同研究を続けている。さらに、その研究の目的として、福島分解において現れる非有界変動をもつ加法汎関数を込めた大偏差原理の研究も行っており、多くの結果を得た。現在、それをまとめてさらなる一般化を考察中である。 その他に、陰山塁氏とある緊密性をもつマルコフ過程から生成されるスペクトル関数の微分可能性を研究した。ユークリッド空間上のブラウン運動や対称安定過程などはその緊密性を持たないので、比較的低次元な場合でしかスペクトル関数の微分可能性は成立しないが、緊密性をもつ場合にはすべての次元の対称マルコフ過程に対して、そのスペクトル関数の微分可能性が成り立つと期待されていたが、この共同研究によりそれを証明することができ、時間変更した非再帰的ブラウン運動、対称安定過程の例を与え、さらに1次元拡散過程で自然境界を持たない場合はスペクトル関数の微分可能性が成り立つことを証明した。現在さらに例を考察中であり、この結果から対称マルコフ過程に関するさまざまな汎関数の大数の法則、中心極限定理、大偏差原理などへの応用を考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究課題であるレヴィ型確率過程を含むような対称マルコフ過程において、加法汎関数の大偏差原理、スペクトルボトムの挙動など予想以上に結果を得ることができた。さらに、理論だけではなく、具体的な例を構成することができ、当初の目的より大きく研究が進展している。加法汎関数の大偏差原理についての論文はアメリカの数学誌に掲載された。 緊密性を持つ対称マルコフ過程のスペクトル関数の微分可能性については当初研究を予定していなかったが、本研究課題の成果を用いることにより結果を得ることができると感じ、実際に結果を得られたことはよかったと思う。さらに対称マルコフ過程の深い性質を垣間見ることができそうであることを実感し、これからの研究テーマを得ることができたのも大変大きな収穫である。 最後に、レヴィ型の確率過程で、そのレヴィ核が非常に特異な挙動をする場合についての研究を開始した。その場合には確率論的考察だけでは不十分なところがあり、解析学的に、例えばよい関数空間の構成をしていかなくてはならないことがわかってきて、それを現在研究している。その関数空間に対しても大体の形がわかってきており、それとディリクレ形式との関係を調べることが今後の課題となる。特にディリクレ形式理論を用いて、既約性、再帰性、非再帰性、保存性を決定する条件を研究していく。
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今後の研究の推進方策 |
まずは福島分解から出てくるような非有界変動をもつ加法汎関数を込めた形での大偏差原理を完成させる。このことによりほとんどの場合の対称マルコフ過程から生成される加法汎関数についての極限挙動を得ることができ、本研究テーマの現実問題への応用を考えるための一つの起点となる。そして、数理ファイナンス、数理生物学への応用を考えていく。 次に緊密性をもつ対称マルコフ過程の今までに知られていなかった例を考えていく。これまで得られた例も意義のあるものであるが、さらに特異的な例を探していきたい。特に、ディリクレ形式から様々な例を構成して現実問題への応用を考えていく予定である。 最後に、レヴィ型確率過程を用いて、解析学的問題、特に擬微分作用素、擬微分方程式について研究していく。擬微分作用素論を確率論的に解釈することは昔から行われており、一般にレヴィ型確率過程に関する生成作用素が擬微分作用素になることは知られているが、空間的に一様でないような作用素に対するスペクトル的性質をレヴィ型確率過程を用いて研究していく。さらにその結果を用いて、確率論的問題、例えば極限定理などへの応用を考えていく。さらに、レヴィ型確率過程に対する確率解析への研究につなげていく。この点に関してはディリクレ形式理論が重要な役割を果たすと考えられるので、レヴィ型確率過程に対するディリクレ形式理論もさらに発展させていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に開催を予定していた例年開催されている研究集会「対称マルコフ過程とその周辺」が新型コロナウィルスの影響のために開催することができず、自分を含め数人の参加者の旅費の使用がキャンセルとなったことと、購入した書籍の代金が予想以上に安価であったため予算に余りが出た。 次年度も新型コロナウィルスの影響で、出張などが減ってしまい旅費の使用は減ると思われるが、研究のための書籍を多めに購入する予定である。
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