研究課題/領域番号 |
17K05311
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
佐々木 浩宣 千葉大学, 大学院理学研究院, 准教授 (00568496)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 非線形クライン・ゴルドン方程式 / ソボレフ空間 / 散乱作用素 / 散乱問題 / 調和解析 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、空間3次元の非線形クライン・ゴルドン方程式の散乱問題における時間大域解の存在定理及び解の漸近挙動を中心に研究した。具体的な非線形項は、場の理論において最も基本的なものを採用し、数学的には3次のオーダーを持つ。 (背景)この方程式に関しては多くの研究者によって散乱問題が研究されており、特に「スケール臨界に相当するソボレフ空間Hs(s=1/2)に属する小さな初期データに対して時間大域解が一意に存在すること、及び逆波動作用素、波動作用素、散乱作用素がHsの或る0近傍上において定義できること」が示されている。これらのうち散乱作用素を詳細に分析するのが今回のテーマである。 以下k>sとする。このとき、入力データu0がHkに属し十分小さければ、それを散乱作用素で写した出力データu+も再びHkに属する。非線形項が多項式タイプである故、このkは任意に大きくすることができる。即ち、滑らかで小さい入力ータは、再び滑らかな出力データとして写ることが分かる。滑らかさと同様に、「十分速く減衰するような入力データは、再び十分速く減衰する出力データに写る」ことが想像できる。更に強い性質「入力データが急減少関数であるとき、出力データも急減少関数である」(性質Dと呼ぶことにする)も期待できる。性質Dは散乱作用素の分析の上で重要な課題であるが、これまで厳密に証明されたことがない (主結果)今回、性質Dが実際に成り立つことを厳密に証明した。証明のキーとなるのは「クライン・ゴルドン方程式と相性の良い微分作用素」及び「重み付き微分作用素の精密な解析」である。今後この結果は学術論文として纏め、国際学術雑誌へ投稿する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一年度としてはおおむね順調に進展していると考える。 当初の計画においては(1)非線形ディラック方程式の長距離散乱、(2)非線形シュレーディンガー方程式の実解析的平滑化効果、というテーマを設定した。上部の「研究業績の概要」において記載した結果は、(1)並びに(2)と大いに関連があり、本来の目標達成に大きく寄与する可能性があるものである。
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今後の研究の推進方策 |
現段階で得られている主結果及びそれを得るに至る手法を応用・修正することで、更に深い諸性質を明らかにしていく。 その際に調和解析学(フーリエ解析、バナッハ空間の実補間空間論及び複素補間空間論、自己共役作用素のスペクトル理論など)の深い洞察が必須となるので、周辺分野の研究も適時行う。また考察を補助的に支えるシミュレーションに関しても積極的に行う。横断的な研究活動となることが予想されるので、それぞれのエキスパートである専門家とのディスカッションを精力的に行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 平成30年度は多くの出張と書籍ならびに、パソコン周辺機器の購入を予定しており、その遂行のために今年度の支出をある程度抑えた。 (使用計画) 本研究では様々な分野(偏微分方程式論、関数解析学、数理物理学)の技術・知識を必要とするため、それに関係する書籍を年間15冊程度(20万円程度)購入する。本研究における論文作成、成果発表資料作成、シミュレーション作成、研究者間の通信のため、パソコン周辺機器の充実化が必須である。今年度は30万円程度の購入を計画している。本研究の打ち合わせ並びに研究成果発表のために、出張を行う。国内出張先として、京都大学、信州大学などが挙げられる。またタイミングがあえば海外出張も行う。予算は40万円程度である。
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