研究課題/領域番号 |
17K05315
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
柘植 直樹 岐阜大学, 教育学部, 准教授 (30449897)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 圧縮性オイラー方程式 / ノズル流 / 保存則 / 外力 / 時間周期解 / 時間大域解の存在 / 不変領域 / 差分法 |
研究実績の概要 |
本年度は、圧縮性オイラー方程式に対する、①ノズル流と②外力を加えた流れの数学解析を行った。①は、断面積が変化するノズル内を流れる気体の運動を表す。工学的には、ロケットや超音速旅客機のエンジンの排気口に利用される。宇宙流体力学においては、太陽風の運動が、ラバル管内の気体の流れに酷似していることが古くから知られている。ここで、ラバル管とは、狭まり広がりの形状をした砂時計のような形をしたノズルである。②に関しては、解の存在は古くから知られていたが、(定常)解の安定性に関する結果は殆どなかった。ここで、定常解の安定性とは、定常解を含むある有界な集合内に解がとどまり続けるということにする。また、時間周期外力を与えた場合、時間周期解が存在するのかという問題は基本的であるが、数学的な結果はやはり皆無である。以上の現状を踏まえて、今年度の研究業績の概要を以下に述べる。 ①に関して 時間大域解の存在に関する結果を、アメリカのペンシルベニアで行われた国際会議HYP2018において発表した。また、その国際会議において、他の研究者から、初期値のエネルギーが有界な場合、対応する解のエネルギーも有界になるのかという質問を受けた。これは物理的には自然なことであるが、数学的に証明する場合は困難である。というのも、この圧縮性オイラー方程式の解の存在を示す場合、エネルギークラスと呼ばれるエネルギーが有界である解のクラスではない別の関数空間を考えるからである。この問題に対して、改良Lax Friedrichsの差分法を導入して解決をした。この論文は、現在投稿中である。 ②に関しては、解の安定性に関する論文が掲載された。これは、Y. Hu氏、Y. Lu氏らとの共同研究である。また、時間周期解の存在に関しては、解が超音速の場合に限り結果を得られ、論文を現在投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
遅れている課題は次の3つである。 ③ 時間周期解の存在 この課題は、圧縮性オイラー方程式に時間周期外力を加えて、時間周期解の存在を示すという内容である。当初は、(空間)周期境界条件を考える予定であった。この問題では、時間周期解の存在を示すときに、不動点定理を適用する。そのとき、初期値と1周期後の解が同じ有界領域に含まれるということを示す必要がある。そのときに、不変領域の方法を用いるのだが、この場合、その不変領域を構成することが困難なのである。我々の拡張された不変領域は、その上限と下限が空間変数に関する単調増加関数になる。一方、周期境界条件の場合、不変領域は、空間に関して周期的でなければならない。同様にして、有界領域において、境界条件として固定壁を考えた場合も不変領域を構成することができない。 ④ 圧縮性ナビエストークスの衝撃波の安定性 この問題は、圧縮性ナビエストークス方程式の衝撃波と呼ばれる進行波の安定性を示すという問題である。特に、等温の場合の研究を進めている。問題は、この方程式の衝撃波から摂動が満たす方程式のアプリオリ評価を得られないことである。当初は、質量保存即と運動量保存則に対して、ある関数を掛けてアプリオリ評価を導こうとしていた。しかしながら、これらの関係式だけからは、アプリオリ評価を得ることは困難なようである。 ⑤ 拡張された不変領域の他の方程式への応用 この問題は、圧縮性オイラー方程式で得られた拡張された不変領域の手法を他の方程式(例:反応拡散方程式、非線形波動方程式)へ応用するというものである。この問題に対しては、ノズル流や外力を加えた流れに関する論文作成や研究発表によって、研究する時間を確保できなかったことが主な理由である。
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今後の研究の推進方策 |
【研究実績の概要】と【現在までの進捗状況】を踏まえて、今後の研究の推進方策を述べる。①等の番号は、それらの番号に対応している。 ① ノズル流に関して ラバル管に対して、解の減衰評価の研究を現在進めている。ラバル管の形状の特殊性を用いると、初期値のエネルギーが有界なとき、解は拡散していく。このことを数学的に証明するのが、この研究の目的である。10年前に代表者が行っていた手法を用いて、その解決にあたる予定である。 ③ 時間周期解の存在に関して 周期境界条件や固定壁をもつ有界領域の時間周期解は、数値計算の結果から衝撃波(不連続解)が発生することが予想される。不連続解は、解を構成する場合には障害になることが多いが、不変領域を構成する場合には有利に働く。この衝撃波の性質を用いて、不連続な不変領域が構成できないかと現在考えている。 ④ 圧縮性ナビエストークスの衝撃波の安定性に関して 数学において、質量、運動量、エネルギーを含む数学的エントロピーと呼ばれる量が存在する。当初は、質量と運動量のみに着目していた。これからは、一般の数学的エントロピーにまで範囲を広げて、アプリオリ評価の導出を試みたいと考えている。 ⑤ 拡張された不変領域の他の方程式への応用に関して 我々が導入した拡張された不変領域を用いるためには、移流項の存在が不可欠である。まず、移流項をもつような反応拡散方程式を見つけることから始めたいと考えている。そのため、反応拡散方程式の色々な研究集会に出席して、知識を広げたいと考えている。同時に、反応拡散方程式の理解を深めるために、他の研究者と現在BZ方程式の研究も行っている。
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