研究実績の概要 |
切断近似をしないボルツマン方程式について、大域的平衡解の周りでの速度変数に関する多項式オーダー減衰解が時間大域的に存在することを明らかにした。証明で用いた、積分型フーリエ乗法演算子はボルツマン方程式の輸送項と衝突項から、空間変数の楕円性を自然に導く性質を持っている。楕円性の指数は衝突項の速度変数に関する楕円性の指数に等しく、この指数は衝突積分項の角度変数の特異性の指数 2s ( s<1)に一致する。それゆえ、非切断型ボルツマン方程式の初期値問題の解については、指数 min {2s, 1}の Gevrey 級の平滑効果が予想される。予想解決の第一歩として、s=1 とした極限の場合として考えられるランダウ方程式について、マクスウェル型と呼ばれる特別な場合ではあるが、大域的平衡解の摂動解に対して解析的平滑効果が 指数タイプ(exp)積分型演算子を用いて示された。 上記の研究で威力を発揮した積分型演算子の対数版を用いて、ボルツマン方程式に対する初期値問題の解のC無限-平滑化の証明を試みた。まず簡単なモデルとして、準楕円型作用素として知られるコルモゴロフ作用素のラプラシアン部分をラプラシアンの対数のべき乗に置き換えた作用素を考察した。べき乗指数を σ とすると、2乗可積分な初期値に対してC無限平滑化が起こるための必要十分条件は σ > 1 であることが、対数版演算子がみたすUkai型不等式から導かれる。次に、ラプラシアンの対数のべき乗の部分を無限次で退化する2階楕円型作用素に置き換えたモデルを考察した。無限次退化の2階楕円型作用素が、ラプラシアンの対数の1を超えるべき乗の楕円性をもてば、C無限-平滑化がおこると予想される。しかし演算子の1階微分がもつ技術的困難さのため、無限次で退化する部分が2階微分作用素ではなく1階より低い擬微分作用素でおきかえたモデルのみで結果は得られている。
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