研究課題/領域番号 |
17K05319
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
足立 匡義 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (30281158)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 散乱理論 / スペクトル理論 / 多体量子力学系 / シュレーディンガー作用素 / 時間周期的ポテンシャル / 解析学 / 関数解析学 / 数理物理 |
研究実績の概要 |
前年度の最後に、時間周期的ポテンシャルをもつ3体シュレーディンガー作用素に付随するFloquet Hamiltonianに対するMourre評価を得たことは既に報告した。それを受けて、その評価から副産物を得ることに注力した。第一段階で、Floquet Hamiltonianによって生成される時間発展作用素に対するminimal velocity estimateを得た。2体短距離型問題であれば、この評価からFloquet Hamiltonianに対する漸近完全性が得られ、あとは元の物理系に対する波動作用素の存在さえ示されれば、Howland-Yajimaの方法を適用することで、元の物理系に対する漸近完全性の結果も得られる。この意味で、minimal velocity estimateは有用な評価であるといえる。しかしながら、3体系に対しては、Floquet Hamiltonianによって生成される時間発展作用素に対するminimal velocity estimateだけでは、応用上不十分である。そこで、第二段階として、元の物理系を支配するHamiltonianによって生成される時間発展作用素に対するminimal velocity estimateの導出に取り組むことにした。その結果、Mourre評価を得るためにポテンシャルに課す仮定よりも強い仮定の下ではあるが、その評価を得た。この評価は、多体シュレーディンガー作用素に対する漸近完全性の証明において鍵となった評価に相当するものであり、時間周期的ポテンシャルをもつ3体シュレーディンガー作用素に対する同様の問題でも同じく鍵となるであろうと期待される。勿論、同様にすれば、2体系に対しても同種の評価が得られる。2体系に対するその評価もこれまでには得られていなかったものである。ただ、これはまだプレプリントの段階である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
時間周期的ポテンシャルをもつ3体シュレーディンガー作用素によって生成される時間発展作用素に対するminimal velocity estimateの導出に成功したことで、1986年の中村氏の仕事以来取り扱われてこなかった、当該の3体系に対する漸近完全性の問題の、望ましい解決への一歩にこの結果がなり得るからである。
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今後の研究の推進方策 |
minimal velocity estimateの導出が、物理系を支配するHamiltonianに付随するFloquet Hamiltonianによって生成される時間発展作用素に対するものに留まらず、物理系を支配するHamiltonianによって生成される時間発展作用素に対するものが得られたことで、研究の方向性にいくらかの広がりが生じた。そのうちの一つとしては、2体長距離型問題に対するアプローチが挙げられる。これまでは、1982年の北田氏と谷島氏の共同研究による、Enssの方法に基づくアプローチしかなかった。そこに、Floquet Hamiltonianに対するMourre評価を基礎としたアプローチを加えていきたい。もう一つは、3体短距離型問題に対する同種のアプローチである。件のminimal velocity estimateから、当該物理系に対する漸近クラスタリングが示されることが期待される。ただ、現時点では、通常のシュレーディンガー作用素で短距離型と呼ばれているポテンシャルの減衰度全てに対して示せるという見通しは立っていない。通常のシュレーディンガー作用素に対する問題ではmaximal velocity estimateと呼ばれる評価も得られているのに対し、時間周期的ポテンシャルをもつシュレーディンガー作用素に対しては同様の評価が得られるのかどうかが不明だからである。これは、エネルギー保存則の破れに起因する。その評価を利用しないようにしようとすると、現時点ではポテンシャルの減衰度にある程度の制約が必要になる。この制約が本当に必要かどうかを探るのも、今後の研究の推進において重要である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を受けて、2020年2月と3月に予定されていた出張が全てキャンセルとなり、その分の旅費の支出がなくなったため、次年度への繰り越しをする必要が生じた。ただ、次年度においても、出張にかかる旅費に使用できるかどうかが現時点では不透明である。
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