研究課題/領域番号 |
17K05319
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
足立 匡義 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (30281158)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 散乱理論 / スペクトル理論 / 多体量子力学系 / シュレーディンガー作用素 / 時間周期的ポテンシャル / 解析学 / 関数解析学 / 数理物理 |
研究実績の概要 |
研究代表者が指導している大学院生と共同で、Enss-Wederの方法を基礎として、空間的に一様な電場内にある量子力学系に対する散乱逆問題に取り組み、研究代表者と他の研究者達との共同研究(Adachi-Maehara (2007), Adachi-Kamada-Kazuno-Toratani (2011), Adachi-Fujiwara-Ishida (2013))で得られた結果の改良に成功した。改良の目的は、散乱作用素から一意的に定まる短距離型ポテンシャルのクラスをできるだけ広く取ることにある。先行研究による結果では、取られたクラスに属するポテンシャルの1階微分の減衰度が、散乱順問題の観点からは自然であるとは言い難く、改良の余地があると考えられていた。今回の改良の契機となったのは、定電場の場合に対するIshida (2019)の仕事である。そこで提示された改良へのアプローチを活用することで、前述の先行研究(Adachi-Kamada-Kazuno-Toratani (2011)とAdachi-Fujiwara-Ishida (2013))で考えられていた、時間に依存して変動する電場の場合における結果の改良を得た。しかし、この分野の研究の端緒であるWeder (1996)の仕事と同様に、ポテンシャルの微分の階数を1までしか想定しないとすると、改良は限定的となることがわかった。そして、ポテンシャルの微分の階数を2まで考えることにより、散乱作用素から一意的に定まる短距離型ポテンシャルのクラスを、散乱順問題の観点からも自然であるものに取ることに成功した。この結果を公表するべく、学術雑誌に論文を投稿して現在査読を受けている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Adachi-Kamada-Kazuno-Toratani (2011), Adachi-Fujiwara-Ishida (2013)では、時間が経つにつれて減衰してゼロ電場へと漸近するような、空間的に一様な電場を考えていた。時間に関する減衰オーダーを表す冪を、0以上1未満の数aを用いて、-aと表すことにする。前述の先行研究では、aが0にある程度近い場合の結果がかなり不自然なものとなっていた。特にa=0のときは、電場が定電場である場合も含んでいる。よって、その結果の改良はなされるべきものであった。今回の改良により、ポテンシャルの微分の階数を2まで想定することで、散乱順問題の観点からも自然なクラスにおいて、散乱作用素から短距離型ポテンシャルが一意的に定まる、という新たな知見が得られたことに意義が認められるからである。
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今後の研究の推進方策 |
残されていた課題であったため、散乱逆問題に少し寄り道をしたが、本来的には、時間周期的なポテンシャルをもつ3体シュレーディンガー作用素に対する散乱順問題の1つとして、波動作用素の漸近完全性の問題に取り組んでいたのであった。以前研究代表者自身が導出した、件の物理系を支配するHamiltonianに付随するFloquet Hamiltonianに対するMourre評価からは、Floquet Hamiltonianによって生成される時間発展作用素に対してだけでなく、物理系を支配するHamiltonianによって生成される時間発展作用素に対してもminimal velocity estimateが得られる。その評価から、当該物理系に対する漸近クラスタリングが示されることが大いに期待されるのであるが、漸近クラスタリングが成立するようなポテンシャルのクラスが、通常の短距離型ポテンシャルのクラスと一致するのかどうかなど、解明されるべき問題は多くある。段階を追ってそれらを探っていくことが、今後の研究の推進において重要である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を受けて、旅費の支出がなくなったため、次年度への繰り越しをする必要が生じた。ただ、次年度においても、出張にかかる旅費に使用できるかどうかは不透明である。
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