研究課題/領域番号 |
17K05319
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
足立 匡義 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (30281158)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 散乱理論 / スペクトル理論 / 電磁場 / シュレーディンガー作用素 / ドリフト運動 / 解析学 / 関数解析学 / 数理物理 |
研究実績の概要 |
研究代表者が指導している大学院生と共同で、平面に直交する定磁場を印加し、さらにその平面に横たわる定電場を印加した状況下で、その平面内を運動する1体量子力学系に対するスペクトル・散乱理論の研究に取り組んだ。その結果として、その系を支配するハミルトニアンの束縛状態の非存在を示すとともに、短距離型散乱に対する漸近完全性を証明した。これらの結果は、荷電粒子のドリフト運動に密接に関係している。平面に直交する定磁場が印加されている場合、荷電粒子の運動は、サイクロトロン運動と呼ばれる等速円運動となることはよく知られている。その平面に横たわるように定電場が印加されると、その円運動の中心は、定磁場、定電場双方に直交する方向に等速直線運動をする。これをドリフト運動という。その一定の速度をドリフト速度というが、それは定磁場と定電場のみによって定まり、荷電粒子の質量や電荷には依らない。この物理的描像に基づき、件のハミルトニアンの束縛状態の非存在は、2010年のDimassi-Petkovによる先行研究において既に予想されていた。その後いくつかの先行研究でその証明が試みられたが、ポテンシャルの減衰にかなり強い条件を課した場合にのみ示されているだけであった。我々の結果は、ポテンシャルにごく自然な減衰条件を課しただけで束縛状態の非存在が示される、というものである。また、その副産物として、ドリフト運動の観点から見て適切であると思われる、新たなウエイトをもつ極限吸収原理を得た。これを用いると、短距離型散乱に対する漸近完全性を比較的容易に証明することができる、という利点がある。この結果を公表するべく、学術雑誌に論文を投稿して現在査読を受けている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
定磁場と、それに直交する回転電場をともに印加した状況下では、荷電粒子の比電荷で定められる角速度で電場が回転しているときに限って、いわゆるサイクロトロン共鳴という現象が起きる。その数学的解析へのアプローチが今回の結果から示唆されると思うからである。
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今後の研究の推進方策 |
今回の結果を受けて、サイクロトロン共鳴に関係する量子力学系に対するスペクトル・散乱理論の研究を進めていくのが1つの方策である。それと同時に、これまでも研究してきている、時間周期的なポテンシャルをもつ3体シュレーディンガー作用素に対する散乱順問題の1つとして、波動作用素の漸近完全性の問題に取り組み、短距離型散乱に関しては一定の結果を求めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度同様、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を受けて、旅費の支出がなくなったため、次年度への繰り越しをする必要が生じた。ただ、次年度においては、出張もほぼ普通にできるようになると予想され、ある程度はその旅費に充てることになる。
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