研究課題/領域番号 |
17K05319
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
足立 匡義 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (30281158)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 散乱理論 / スペクトル理論 / 電磁場 / シュレーディンガー作用素 / 時間周期的なポテンシャル / 解析学 / 関数解析学 / 数理物理 |
研究実績の概要 |
研究代表者単独での研究となるが、時間周期的なポテンシャルをもつ3体シュレーディンガー作用素に付随する3体Floquetハミルトニアンに対するMourre評価の証明に取り組んだ。これは数年前にも挑戦した課題である。2体Floquetハミルトニアンに対するconjugate operatorとしては、1998年のYokoyamaによるものと、2019年のAdachi(研究代表者)-Kiyoseによるものが知られている。それらをうまく貼り合わせれば3体系に対してもconjugate operatorを構成することができる、というアイデア自体は変わっていない。自由チャネルに対するconjugate operatorとして、それまでは自由チャネルを取り扱うのに相応しいと考えられるYokoyamaによるものを採用していたのであるが、今回それをAdachi-Kiyoseによるものに取り替えた、というのが大きな変更点である。これにより、貼り合わせから生じる誤差項のコンパクト性がより自然に示されるようになり、証明の見通しも立ちやすくなった。新たなconjugate operatorで得られたMourre評価を用いて、最小速度評価の証明も与えた。これより先、最小速度評価に基づく漸近クラスタリングの証明を与えることが主要な課題となる。漸近クラスタリングと、2体系の漸近完全性の結果を組み合わせれば、懸案となっていた3体系の漸近完全性の証明が得られるからである。先に述べた結果を公表するべく、学術雑誌に論文を投稿して現在査読を受けている。 ついでながら、研究代表者が指導している大学院生との共同研究に基づいて昨年度に執筆した3篇の共著論文はいずれも、ブラッシュアップを経て国際学術雑誌に掲載される予定となったことを報告する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の3体Floquetハミルトニアンに対するMourre評価の証明において難所であるとこれまで考えられてきたのは、そのハミルトニアンとconjugate operatorとの交換子を計算する際に現れる、貼り合わせのための単位の分解からの誤差項のコンパクト性を示すことである。今回conjugate operatorの定義を思い切って変えたことで、障害となっていた箇所が概ね取り払われた、と考えているからである。
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今後の研究の推進方策 |
時間周期的なポテンシャルをもつ3体シュレーディンガー作用素に対する散乱順問題の1つとして、波動作用素の漸近完全性の問題に取り組む。上に述べたように、最小速度評価自体は得られているので、それに基づいて漸近クラスタリングを示すことを当面の目標とする。定常的なシュレーディンガー作用素の場合と違って、Floquetハミルトニアンに対する最大速度評価の成立は期待できず、その評価に替わるものを提示することが喫緊の課題となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度同様、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を受けて、旅費の支出が少なかったため、次年度への繰り越しをする必要が生じた。最終年度となる次年度においては、パソコンの更新が必要となったため、その新規購入に充てるとともに、旅費にも充てることになる。
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