研究課題/領域番号 |
17K05325
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
伊藤 健一 東京大学, 大学院数理科学研究科, 准教授 (90512509)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 数理物理 / 偏微分方程式 / シュレーディンガー方程式 / スペクトル理論 |
研究実績の概要 |
シュタルクハミルトニアンに対しレーリッヒの定理,極限吸収原理,放射条件評価,ゾンマーフェルトの一意性定理を得た.シュタルクハミルトニアンとは,空間一様な定電場内を運動する荷電粒子のハミルトニアンであり,物理的にも基礎的かつ重要な研究対象である.上述の一連の結果は,シュタルクハミルトニアンのスペクトル理論的性質を,アグモン‐ヘルマンダー空間におけるヘルムホルツ方程式の解析というより深い立場から論じたものである.これらは定常的散乱理論の構成への足がかりとしても重要であり,今後も更なる展開が期待される.証明は研究代表者自身がこれまでに考案した交換子法により行われ,そこでは対応する古典力学系の性質を適切に反映した「エスケープ関数」の構成が重要な鍵となる.このエスケープ関数はconjugate operatorやアグモン‐ヘルマンダー空間の生成に利用され,ある意味で理論全体を制御する基幹的な関数である.一般にエスケープ関数の具体形は対応する古典軌道からある程度推測することができるが,シュタルクハミルトニアンに対しては,変数分離の方法による単純なものでは議論を最後まで進めることができず,適切なエスケープ関数の構成が最も困難な個所である.本研究では放物線座標を導入することでこの困難を解消した.なお,本研究で用いられたconjugate operatorでは交換子の正値性が弱く,この分野で標準的とされるムーアの交換子法は適用できない.この意味でも本研究は独創的であると言える.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度と同様に,研究代表者がこれまでに多様体上で考案した手法を用いることで,ユークリッド空間上での問題に対し新しい結果が得られた.これは研究計画で言及した研究内容とはやや異なるが,結果の重要性などを含め総合的に考えると,おおむね順調に研究が進んでいると判断される.
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今後の研究の推進方策 |
シュタルクハミルトニアンに対する定常的散乱理論を一つの目標とする.また同時に,研究実施計画に記載された研究を進める.
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次年度使用額が生じた理由 |
国内旅費として使用する予定だったが,学内業務により中止となったため次年度使用額が生じた.この額は国内旅費として使用される予定である.
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