当該年度には,2回連続微分可能な長距離型ポテンシャルを持つSchrodinger作用素に対し,定常散乱理論を構成した.またその応用として,一般化固有関数の漸近挙動の散乱行列による特徴付け及び一般化Fourier変換の構成を行った.さらに,定常散乱理論と時間依存散乱理論の同等性についても論じ,時間依存波動作用素が一般化Fourier変換の共役作用素で表示できることを示した.これまで,長距離型定常散乱理論の先行研究では,4回または3回連続微分可能なポテンシャルが扱われてきたが,本研究ではそれを2回にまで弱めることに成功した.2回連続微分可能なポテンシャルは古典散乱理論でも自然に表れることから,恐らく本研究の仮定は最良であると考えられる.本研究における主要な道具は,アイコナール方程式の解の評価及び極限レゾルベントに対する強型放射条件評価である.前者の証明は,変分原理的手法を用いる大変技巧的なもので,これまでのPDE的手法を用いたものとは大きく異なる.また後者の証明には交換子法が用いられ,そこではconjugate operatorとしてある2階の微分作用素が採用される.この交換子法は長い計算を必要とし,やはりかなり技巧的ではあるものの,1階の微分作用素をconjugate operatorとするMourre交換子法とは本質的に異なるものと考えられ,今後の応用が期待される.なおこの交換子法は,2020年度に研究代表者自身によってStarkハミルトニアンに適用されているが,その際には短距離型摂動のみを扱っていたのに対し,ここでは長距離型摂動への拡張がなされている.
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