研究実績の概要 |
2020年度については、対称空間上のシュレディンガー方程式に関わる対称空間上の幾何解析的構造の研究を行った。今までの研究から判明していることであるが、対称空間上の自由粒子に対応するシュレディンガー方程式の基本解は帯球関数と密接に関係しており、帯球関数の幾何解析的性質を調べることが本質的に重要である。一方、数年前から、ゴンザレス教授(タフツ大学)、クリステンセン教授(コルゲート大学)、ワン氏(タフツ大学)と共同で行っている対称空間上の合成積作用素に関する研究と、本研究が密接に関係していることが判ってきた。そこで、合成積作用素に関する研究に力点を移し、特に、合成積作用素の全射性について重点的に研究した。得られた研究成果は以下の通りである。X=G/Kを非コンパクト対称空間とし、μをX上のコンパクト台を持つ超関数でK不変とする。μとの合成積を取るという操作f → f*μ により、X上の滑らかな関数全体の空間からそれ自身への連続線形作用素が定まる。この枠組みで合成積作用素を考える。この時、クリステンセン教授、ゴンザレス教授との2017年の共著論文で、μのフーリエ変換がエーレンプライスの意味でslow decrease propertyを満たせば、合成積作用素は全射となる。(Christensen, Gonzalez, and Kakehi,JFA, 2017)ということが示されている。今年度の研究では、この逆が成り立つことを証明した。上記をまとめると、「μのフーリエ変換がエーレンプライスの意味でslow decrease propertyを満たすことが、合成積作用素が全射となるための必要十分条件となる」という結果が得られた。この結果は、論文としてまとめられ、Journal of Functional Analysis, Vol.280, No. 2(2021)に掲載された。
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