研究実績の概要 |
前年度に導入したシェル状の初期データを利用した時間領域囲い込み法の有効性を端的に 示すため, 時間領域におけるStokes方程式系を支配方程式とする有界領域における障害物逆問題へ応用した. その結果, 従来の時間領域囲い込み法に相当する結果とともに任意に与えられた点を中心とした未知の障害物を含む最小の球を求める公式を確立した. その方法は, 次の三つのステップ(1)-(3)からなる. (1)与えられた点を共通の中心とする, 有界領域を囲む二つの球の間のシェル状領域上に台を持つ初期条件を与え空間全体でベクトル値関数に対する熱方程式系の初期値問題を解く. (2)(1)で得られた解の回転が空間全体でStokes方程式系を満たすのでそれから領域表面上に与える速度ヴェクトル場を構成する. (3)(2)で構成した速度ヴェクトル場を入力として得られた領域表面上の応答から囲い込み法における指示関数を計算しその漸近公式から求める最小の球の情報を引き出す. 既存の先行結果と比較して得られた情報自体が新しくしかも用いるデータは一組であり強力な結果となっている. Maxwell方程式系への応用については, 前年度の研究を踏まえてまずは全空間, 時間領域におけるMaxwell方程式系を支配方程式とする, 既知の等方均質媒質内に置かれた未知の等方的非均質な障害物の逆問題を考察し高々二組の有限時間にわたる後方散乱データを使った時間領域囲い込み法を確立した. その際障害物上の比誘電率および比透磁率に対する跳びの条件としていままでにない両者を含んだ条件を見出した. この条件は既存の比透磁率一定の下での研究における跳びの条件と一線を画するものである.
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