微分喪失型で周波数の分数巾に依存する消散項をもつ半線形消散型波動方程式の大域解の一意存在および漸近挙動について考察した.微分喪失型とは,解の高周波の減衰が周波数の負巾に依存するタイプの方程式である.微分喪失型でない消散波動方程式の場合は,高周波領域での解の減衰が周波数の正巾によるため解の高周波領域の減衰が速いが,この場合は減衰が遅く,初期値に微分可能性を強めることによって解の高周波領域での減衰が得られる. 2020年にY.Z.Wand -.Li(J. Math. Physics 61)は,微分喪失型で周波数の分数巾に依存する消散項をもつある半線形消散型波動方程式を考察し,十分な滑らかさを持った可積分関数である小さい初期値に対する大域解の一意存在と漸近系を与えた.ここで彼らは,方程式が微分喪失型であることにより,初期値に関する強い微分可能性を仮定した.本研究では初期値に対する微分可能性条件を弱め,大域解の一意存在を示した.また,大域解の存在に関しては,初期値に対する減衰条件も弱めたが,初期値が重み付きL1空間に属するときには,漸近系と元の解との差の減衰指数が解の減衰指数よりも大きくなることを示した.方法は,低周波部分についてはY.Z.Wand - Y.Liと同様,筆者がNonlinear Differ. Equations Appl. 26 (2019年)で示した微分喪失型ではない周波数の分数巾に依存する消散項をもつ消散波動方程式の大域解の存在と漸近系を得るために証明した積分核の減衰評価の結果を用いた.高周波部分については適切な解のクラスを定め,両者から大域解の存在を示した.
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