2020年度までの研究において、多安定型非線形項をもつ空間1次元の反応拡散方程式の自由境界問題において,適当な条件の下で解が速度の速いsemi-wave(自由境界問題に対応する進行波)に速度の遅い進行波を積み重ねた形状をもつテラス解(propagating terrace)に収束するということを証明した.2021年度はこの結果を空間高次元の球対称の場合へ拡張を行った.まず,空間高次元球対称の場合において,解の漸近挙動の分類に関する結果を兼子裕大氏(日本女子大学),山田義雄名誉教授(早稲田大学)の共著で論文としてまとめ、学術雑誌へ投稿した.解の漸近挙動の分類における鍵となるのは,Du-Lou-Zhou(2016)の結果より,対応する定常解構造の解析に帰着されるが,空間高次元の場合は相平面解析が使えない.本研究ではBerestycki-Lions-Peletier対応する常微分方程式の結果とSerrin-ZhouによるLiouville型定理を用いることにより証明に成功した.この論文は受理され,学術雑誌Discrete and Continuous Dynamical Systemsに掲載されている. 次に,高次元球対称の場合においてspreading解の漸近的形状に関する結果,具体的には時間が十分経過した後、空間的にlog tのずれ(logarithmic shifting)を含むテラス解へ収束することを証明した.この結果については同じく,兼子裕大氏,山田義雄名誉教授と共同で論文を作成している.次に,対称性を仮定しない場合についての解の漸近挙動の分類についての研究についても大きな進捗があった.一方,自由境界の広がる速度の評価について一部技術的に困難な部分があり,残された課題である.本年度は研究期間の最終年度であるが,対称性を仮定しない問題にまで着手でき,予想以上の進捗を見せた.
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