研究実績の概要 |
Hrushovskiの構成した境界関数から定義されるジェネリック構造について、パラメータが0と1の間の有理数の場合、その自己同型群が単純群になることを昨年度までに得られたが、証明は少し複雑なところがあった。今年度はその証明をかなりすっきりさせることができた。Hrushovskiの境界関数からきまる有限グラフのクラスが融合性をもつことによりジェネリック構造が存在するわけであるが、融合性の証明にはHrushovskiの境界関数の特殊な性質が必要であった。F.WagnerはHrushovskiのジェネリック構成法に関する解説論文において、境界関数fに対し、f'(x)≦c/x の形の条件を仮定して融合性を示した。境界関数から決まるクラスのジェネリック構造に関して出版されている論文について述べると、ほとんどすべてにおいてこの条件を仮定して議論している。実はHrushovskiが最初に構成した境界関数はこの条件を満たしていない。このことをよく考えることにより、Hrushovskiの境界関数はこのWagnerの条件をみたすどの関数よりも早く増加することがわかった。したがって、上の結果からWagnerの条件をみたす関数に基づいて構成されるジェネリック構造についても一般にその自己同型群が単純になることがわかった。 パラメータが無理数の場合のジェネリック構造に対してはなかなか状況が難しい。有理数の場合はEvans, Tentらによって定義されたmonodimensionalという性質をもつことを示すことにより自己同型群の単純性が得られたが、パラメータが無理数の場合はmonodimensinalにならないことがわかった。しかしながら、monodimensionalという性質は強い条件と思われるので、自己同型群の単純性についてはまだ検討の余地がたくさん残されている。
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