研究課題/領域番号 |
17K05351
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
矢島 幸信 神奈川大学, 工学部, 教授 (10142548)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 単調正規空間 / 定常集合 / 積空間 / D-空間 / 無限積空間 / C*-埋め込み / C-埋め込み / P-埋め込み |
研究実績の概要 |
位相空間の性質として代表的なものに正規性という概念がある。一般に2つの空間からなる積空間において正規性は保存されない。それ故に積空間の正規性は1950年以前から現在に至るまで70年間もの長きにわたり研究されてきた位相空間論の中心的研究課題である。一方、単調正規空間およびD-空間は偶然にも同じ時期(1975年前後)に生まれた概念である。どちらの概念も21世紀に入るやいなや多くの著名な数学者たちが積極的に研究してきた。それは現在に位置に至るまで続いている極めて競争の激しい研究課題である。研究代表者は同僚である平田康史氏とともに2010年代の始めからこの2つの研究課題に取り組んできた。単調正規空間については、その積空間という独自の観点から多くの研究結果を出してきたが、D-空間については著名な数学者の提出した問題をひとつ解決したもののその後が続かなかった。 そこで方向を変えて、積空間における(正規性の一般化であるところの)C*-埋込やC-埋込の研究へと進んでいった。しかし、2つの空間の積空間については、既に大田春外氏により十分に研究された感がある。一方、無限積空間のC*-埋込やC-埋込については、あまり研究されていないことが分かってきた。そのため、自然数による非可算無限積空間というもっとも基本的な積空間の研究に着手した。ところが残念なことに、この研究はポーランドの著名な数学者であるPol夫妻によって、先鞭をつけられていた。我々はその事実を指摘されて初めて知った。しかし、幸か不幸か知らなかったがゆえに、我々はある集合論の公理のもとで、Pol夫妻の結果とは全く相反する結果を得ることができた。結論として、自然数による非可算無限積空間におけるC*-埋込とC-埋込の相違の問題は、集合論と独立であるとなった。これは多くの数学者にとって、予想外の結果と言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前に述べたように、自然数による非可算無限積空間におけるC*-埋込とC-埋込の相違の問題は、数学的に決定できないという全く予想外の形で決着させた。この無限積空間はこの種の積空間としては、最も基本的かつ具体的なものである。当然、また別の予想外の結果があっても不思議ではない。安易な発想ではあるが、このような安易さや自然さが功を奏することが往々にしてあることを経験上知っている。そして、やはりこの発想は外れていなかった。つまり、自然数による非可算無限積空間におけるC*-埋込できる部分集合の濃度に着目した。なんと、この無限積空間上では、C*-埋込できる部分集合に(誰でも知っている)離散という条件を付けると、濃度によるある不等式と同等であることが証明できた。それによって、C*-埋込できる離散部分集合の濃度は、集合論の公理によって可算であったり、非可算であったりと決定することができない(即ち、集合論と独立)ことが分かった。これも全くの予想外の結果である。さらには、この無限積空間においては、高い濃度のC*-埋込できる離散部分集合が存在しないことも分かった。
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今後の研究の推進方策 |
自然数による非可算無限積空間におけるC*-埋込部分集合の研究では、予想外の結果を2つ得ることができた。さすがに同じところで3つ目のドジョウを狙うのは、慎むべきであろう。これも経験上の直観である。もとに戻って、単調正規空間やD-空間の研究をすべきとも考えるが、最終年度1年間の研究として結果が出ない可能性がある。取り敢えず結果を出すという観点から考えると、特殊な積空間のC*-埋込部分集合を研究すべきであろう。その特殊な積空間として、我々がよく選んできたものは順序数による積空間である。この科研費の研究課題の前に研究していた課題である。この順序数積空間におけるC*-埋込部分集合がどのようなものかを研究していくのが、今後の研究推進方策として、最も結果が得やすいと思われる。実際、この研究は家本宣幸氏を始めとして、日本で始められた研究であり、現時点でも世界的には我々が先頭にいると言ってもよい。それだけに注目の度合いは低いが、ここでも前の2つのように集合論と独立であるというような意外な結果が出れば、逆に順序数積空間の研究も注目されることになるであろう。
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次年度使用額が生じた理由 |
数学教室主任であるための学内業務などに予想以上に時間と体力を取られてしまった。特に研究する時間がかなり削られてしまった。そこで研究の推進を優先するために、予定していた国内の研究集会や国際会議への出席を見送った。そのために使用予定の予算が余ってしまった。その分は次年度に新しいPCなどの購入に充てるつもりである。
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