研究課題/領域番号 |
17K05358
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
道工 勇 埼玉大学, 教育学部, 教授 (60207686)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 分枝過程 / 数理モデル / 数理医学 / 有限時間消滅性 / 腫瘍免疫 / 測度値過程 / 環境依存型モデル / 局所消滅性 |
研究実績の概要 |
本研究は確率過程に基づく数理モデルを提案し、それを医療科学分野に適応し、モデル解析の手法を用いて医療分野特有の現象の数理的解明理解・数理科学的解釈を深め、新領域である数理医学の発展に寄与することを目指す数学的な理論研究である。 本研究の第1テーマである「ガン免疫応答に関する局所消滅性の特徴付け問題」では、ガン細胞に対する免疫応答を記述する環境依存型モデルを提案し、ガン細胞が免疫細胞のエフェクター群により局所的に駆逐される様子に対応するモデルの局所消滅性を数理モデル的に再現することに成功しており、その最終目標であるモデル決定因子の言葉での特徴付けに関しては、決定因子による部分的特徴付けまで漕ぎ着けている状況である。 第2のテーマは、腫瘍免疫学上重要とされている「免疫能の飽和性」と呼ばれる限界値の存在を、我々のガン免疫応答に関する環境依存型モデルに対してモデル論的に証明することである。しかしこの第2テーマは理論的にかなり難しい問題であるので、直接的に示すのではなく、代わりに極限移行操作により得られる定性的なモデルを立てて、そのモデルの有限時刻での消滅性を導出することで間接的に免疫能飽和性の限界値の存在を主張する道筋を取ることにした。より具体的には、極限操作で出現する超過程に関して、エフェクター群の免疫作用にある一定の上限値を設定した場合、ガン細胞の無秩序増殖の結果および免疫応答の適合性の有無に拘わらず、ある限定された領域において確率1でガン発症状態へと移行することを数理現象論的に示すことができた。このことで最終目標である免疫能の飽和性という限界値の存在を間接的に証明できたと考えている。 第3のテーマである「生存性・共存性」の出現条件の同定問題に関しては技術的に難しい点が多く、今年度中にはコレと言った顕著な結果を導出できなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第1テーマの「ガン免疫応答に関する局所消滅性の特徴付け問題」では、ガン免疫応答を記述する数理モデルを提案し、ガン細胞がエフェクター群により局所的に駆逐される様子に対応する局所消滅性をモデル的に再現することに成功し、その最終目標であるモデル決定因子による特徴付けに関しては、部分的特徴付けまで成功しているため。 第2テーマである「免疫能の飽和性」という限界値の存在証明問題では、直接的に示すのではなく、代わりに定性的なモデルを立て間接的に免疫能飽和性の限界値の存在を主張する道筋を取ることとし、実際に、極限で出現する超過程に関して、エフェクター群の免疫作用にある一定の上限値を設定した場合、ガン細胞の無秩序増殖の結果および免疫応答の適合性の有無に拘わらず、ある限定された領域において確率1でガン発症状態へと移行することを数理現象論的に示した。このことにより最終目標である免疫能の飽和性という限界値の存在を間接的に証明することに成功しているため。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の第1テーマである「ガン免疫応答に関する局所消滅性の特徴付け問題」では、ガン免疫応答を記述する数理モデルを提案し、そのモデルに対して局所消滅性の再現に成功し、その最終目標であるモデル決定因子の言葉による特徴付けに関しては、決定因子による部分的特徴付けまで漕ぎ着けている状況である。環境依存型モデルの決定因子による完全な局所消滅性の特徴付けに到達できれば、この特徴付け問題は最終的に完結する。これまで基本となる環境依存型モデルの更新に成功し、一方関連する測度値確率過程の特徴付けや解析の面で擬微分作用素の適用などが有効に働く側面があることに気づくことができた。今後はこの線に沿って更なる詳細な解析作業を推し進めて、モデル自体の超過程の定性的な性質の詳しい解析、およびモデル付随の非線形偏微分方程式の定性的性質の解析を進める。とくに近年の測度値過程論の研究動向から鑑みて、超過程の付随する評価式(ある種の不等式)の導出がここでも有効な手段を提供すると踏んでいる。当面は地道な計算を続けて有用な評価式の導出に集中していきたいと考えている。 第3のテーマである「生存性・共存性」の出現条件の同定問題に関しては技術的に難しい点が多く、今年度中にはコレと言った顕著な結果を導出できなかった。そのためこの第3のテーマにより重きを置いて集中的に取り組む必要性を感じている。累次の確率過程モデルの解析結果を参照しつつ、我々のこの環境依存型モデルに関連する超過程に関して、限定された局所領域においてガン細胞と正常細胞の生存性・共存性の記述を与えられた系のもつマルコフ性の観点から分類すべきか、あるいは極限過程(=超過程)含む各種パラメータに依存した条件で類別すべきか、決めかねているのが現状である。取り敢えず、この辺の当たりからモデル構築の経緯の見直しも含めて検討していきながら解析作業を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度はコロナウイルス感染症の影響により、参加発表予定にしていた学会、研究集会など全てがキャンセルかZoom開催となり出張旅費の使用相当分に余剰が生じたため。 しかし、来年度は本研究最終年度でもあり、研究成果を学会、研究集会等で行い、成果を広く知らしめる必要性があること、および成果を分かる形(成果報告書の作成)で残す必要性から、例年度より多くの予算を必要とするため十分に使用する機会があり、予算を消化することが十分に考えられる。
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