本研究は確率過程に基づくランダムな数理モデルを構築・提案し、それを医療科学分野の個別問題に適用し、モデル解析的手法を駆使して医療分野特有の現象の数理的解明理解および数理科学的解釈を深め、新領域である「数理医学」の発展に寄与することを目指す数学的な理論研究である。 本研究の第1テーマである「ガン免疫応答に関する局所消滅性の特徴付け問題」では、ガン細胞に対する免疫応答を記述する環境依存型モデルを構築・提案し、免疫細胞達から成るエフェクター群によりガン細胞が局所的に駆逐される様子に対応するモデルの局所消滅性を数理モデル的に再現することに成功している。その最終目標である局所消滅性のモデル決定因子の言葉による特徴付けに関しては、決定因子による部分的特徴付けを導いた。特徴付け問題として一応の解決を見た。 第2のテーマは、腫瘍免疫学上極めて重要である「免疫能の飽和性」という限界値の存在を、ガン免疫応答に関する環境依存型モデルに対して数理的に証明することである。しかしこのテーマは理論的に難しい問題であることが研究を進める中で判明した。そこで研究方針の見直しを行い、直接的に示す代わりに極限移行操作により得られる定性的モデルの有限時間での消滅性を導出することで間接的に免疫能飽和性の限界値の存在を主張する道筋をとることにした。より具体的には、スケール変換極限操作で出現する超過程と呼ばれる分枝過程に対して、免疫作用に上限値を設定した場合、ガン細胞の無秩序増殖の結果、免疫応答の適合度に拘わらず、ある限定領域において確率1でガン発症状態へと移行することを数理現象論的に示すことができた。このことにより最終目標である免疫能の飽和性という限界値の存在を間接的に証明できたと考えている。 第3のテーマである「存在性・共存性」の出現条件の同定問題に関しては、存在性・共存性に関する十分条件を導出することで解決ができた。
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