研究実績の概要 |
回転数、リアプノフ数などをはじめとしてバーコフ平均は力学系の軌道に関するさまざまな量に関わっている。軌道長Nのバーコフ平均の収束スピードは一般に1/Nのオーダーである。しかし、研究代表者らは、準周期軌道上のバーコフ平均に対しては、理論的には1/(Nに関する任意の多項式)よりも速く収束する重み付きバーコフ平均を提案した。ここでは、無限回連続微分可能な重み関数を用いている。これは倍精度計算、4倍精度計算においても1/N^{15}から1/N^{25}程度のオーダーの収束を確認しており、従来手法の10^2倍から10^8倍程度の高速化を実現しており、既存の計算機性能、手法では行えなかった解析が行えるようになった。たとえば、回転数の高精度での決定、軌道のカオス性、準周期性の判別、軌道のフーリエ係数の高精度での決定などがその例である。 平成30年度には、観測時系列データは時間遅れ埋め込みと重み付きバーコフ平均を用いることで、射影された準周期的な観測時系列データから回転数を高精度で同定する手法を開発した。また、複素力学系のSiegel板に存する準周期軌道のフーリエ級数の減衰オーダーを調べて単位円板に対応させた場合の半径を見積もることによって、Siegel板の境界を形成する非常に複雑な形状をもつ準周期軌道を同定した。これらの結果は、論文 S. Das, Y. Saiki, E. Sander and J. A. Yorke, Solving the Babylonian Problem of quasiperiodic rotation rates, Discrete and Continuous Dynamical Systems Series S 12(8), 2279-2305, 2019. Y. Saiki and J. A. Yorke, Quasiperiodic orbits in Siegel disks/balls and the Babylonian problem, Regular and Chaotic Dynamics 23 (6), 735-750, 2018. として発表された。
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