研究課題/領域番号 |
17K05361
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
上田 肇一 富山大学, 大学院理工学研究部(理学), 准教授 (00378960)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 真正粘菌変形体 / 数理モデル |
研究実績の概要 |
本研究では,生命システムの機能維持の仕組みを理解するために,神経ネットワーク及び細胞運動に対して物質循環を考慮した数理モデルを提案し,さらに,自己組織化現象に対する数理解析手法を開発することを試みる。近年,生命現象に現れるパターンダイナミクスに関する研究においては,振動現象と流体現象の相互作用ダイナミクスが注目されている。例えば,神経ダイナミクスのアトラクタ遷移に対する脳血流による酸素輸送の効果や真正粘菌変形体における移動方向と細胞内原形質流動の方向の関係が例として挙げられる。今年度は,真正粘菌変形体で観察される現象を理解するため,数理モデルの作成と数学解析を行った。真正粘菌変形体の管形成に関する理論研究においては,管半径の増加速度と流量の関係に着目した数理モデルが提案され,現象の再現に成功している。今年度は,従来の数理モデルを発展させ,収縮弛緩運動の振動振幅の影響を考慮に入れた数理モデルを提案することにより次の結果を得た。1. 流量と振動振幅の間にポジティブフィードバックを実現する仕組みを提案した。2. 管上を位相波が伝播する場合と,管上を一様に同期振動する場合を比較し,ある条件下では一様に同期振動する場合の方が時間平均の流量が大きくなることを証明した。本研究で提案した数理モデルは振動子と流体の相互作用という形で記述されていることから,脳神経活動と血流の相互作用ダイナミクスの解析に応用可能であると期待している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は収縮弛緩リズムの位相差が管形成の変化に与える影響を解明することを計画した。課題であった,収縮弛緩の振幅の大きさと流量の間のポジティブフィードバックを記述することに成功したため研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
真正粘菌変形体の柔軟なアトラクタ遷移機構の解明に関する研究を行う。平成29年度に提案した数理モデルを発展させ,細胞の収縮弛緩振動とゾル化の位相差,及び先端運動の振動とゲル化の位相差を制御パラメーターにとり,生物実験で観察される物質の流れに応じたアトラクタ遷移を再現する。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在開発中の数値計算アルゴリズムに適した計算機を購入するために平成29年度の計算機購入を見送った。平成30年度に計算機を購入する計画である。
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