研究課題/領域番号 |
17K05365
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
佐々木 徹 岡山大学, 環境生命科学研究科, 准教授 (20260664)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 応用数学 / 解析学 / 関数方程式 / 数理生物学 |
研究実績の概要 |
ウイルスダイナミクスにおいて, 内部平衡点が不安定になる原因として, 感染時のウイルスの細胞内への吸収の効果, 独立変数としての免疫の強さの導入の効果, 感染からウイルス放出までの時間遅れの効果の三つが挙げられる. ウイルスと未感染細胞の相互作用を記述する数理モデルに, 上記の三つの効果のうち, 二つまでを取り入れたモデルにおいては, 内部平衡点は存在すれば常に安定である事, そして三つの効果をすべて取り入れたモデルにおいては, 内部平衡点が不安定化しうる事を示した. 吸収の効果と免疫変数の二つを取り入れたモデルの解析においては, 質量作用の法則などの具体的な項を使わない一般的な関数系で記述されるモデルを解析し, 平衡点の成分が正になるときに安定性が切り替わる様子を明確に示す事が出来た.
空間拡散の効果を取り入れたウイルスダイナミクスの数理モデルの研究においては, Nowak and Bangham の基本モデル (未感染細胞,感染細胞,ウイルスの相互作用を記述した数理モデル) に液性免疫や細胞性免疫の変数を追加したモデルの解析を前年度に行なったが, その応用として, ウイルス株が複数ある場合の数理モデルの解析を行なった. 免疫の強さを独立変数として取り入れないモデルにおいては, 複数のウイルス株が共存するような平衡点は存在せず, それぞれのウイルス株ひとつのみが生き残る事に相当する平衡点が存在する. 解が時間経過にともない、最も強い株のみが存在する平衡点に漸近する事の証明がほぼ完成しつつある. また,免疫の強さを独立変数として取り入れたモデルにおいては, 適応度に相当する値が閾値を越えるような複数のウイルス株が共存する平衡点に解が漸近していく事の証明がほぼ完成しつつある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ウイルスと未感染細胞の相互作用を記述する基本的数理モデルにおける, 三つの効果 (感染時のウイルスの細胞内への吸収の効果, 独立変数としての免疫の強さの導入の効果, 感染からウイルス放出までの時間遅れの効果) の平衡点安定性への影響に関する研究は, 論文の執筆に着手出来る段階まで進める事が出来た. 特に吸収の効果と免疫変数の二つを取り入れたモデルの解析においては, 一般的な関数系で記述されるモデルを解析し, 平衡点の成分が正になるときに安定性が切り替わる様子を明確に示す事が出来た.
空間拡散を取り入れた, ウイルス・免疫相互作用の数理モデルの解析においては, 液性免疫の場合と細胞性免疫の場合の両方について研究は進んでいる. いずれの免疫を対象とした場合においても, 複数ウイルス株数理モデルに, 免疫変数を取り入れたモデルの解析法の概略は完成しており, 免疫変数を取り入れない場合との比較を含め, 後は細部をつめて, 全体の構成を考える段階に来ている.
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今後の研究の推進方策 |
ウイルスダイナミクスの数理モデルの研究において, 従来はウイルスが未感染細胞に感染するという経路のみを考える数理モデルが研究されて来たが, 最近は, 感染細胞が未感染細胞を感染されるという別の経路も併せて考慮する数理モデルが提唱された. そのような複数経路の数理モデルの解析も進めたい.
細胞性免疫と液性免疫の両方を取り入れた数理モデルに関しての研究も進める予定である. 基本的な常微分方程式モデルに関してはある程度解析されているが, 齢構造, 時間遅れ, 空間拡散のそれぞれの効果を取り入れた数理モデルの解析に、今までの研究成果を取り入れて取り組みたい.
吸収効果, 免疫変数, 時間遅れの三つの効果を取り入れたウイルスダイナミクス数理モデルの解析においては, C プログラム, Mathematica, octave といったツールを用い, 計算機を活用したが, 更に matlab とその toolkit も利用して, 計算機の活用法についても改良していく予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
3 月に参加する予定だった研究集会がすべて中止となり、その分の旅費を使用する事が出来なかった。しかし、研究はほぼ目標どおりに進展しおり、次年度の研究に活用する予定である。
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