研究実績の概要 |
ウイルスダイナミクス・数理モデルにおいて安定な平衡点を不安定化させうる要素として,(1) 時間遅れ (感染からウイルス放出までのタイムラグ), (2) 吸収効果 (感染時にウイルスが細胞内に吸収され、その後新しい細胞に感染しなくなる効果), (3)免疫変数の採用 (免疫の強さを未知変数として取り入れる), の三つに焦点をあてる研究を, 前年度に引き続き行なった. 上記 3 つの効果の他に, 未知変数として感染細胞密度を取り入れる事も平衡点を不安定化させうる (Murase, Kajiwara, Sasaki 2005). これは, 細胞が感染した後感染細胞に変化し, その感染細胞がウイルスを放出するという意味では時間遅れと考えられる. しかし, 今まで検討したのは, いわゆる離散時間遅れと呼ばれる場合で, 感染細胞経由による時間遅れとは意味が異なる. これに関して, 時間遅れがガンマ分布に従う場合の考察を行なった.
ウイルスダイナミクス・数理モデルにおいて, 2 つの感染経路と 2 つのコンパーメント, 齢構造を考慮した微分方程式系の解析を進めた. 前年度に得た平衡点の安定性に関する結果を進めるとともに, 時間大域解の存在と一意性について詳細に検討したり,解の正値性に関しては先行研究を調査し研究を進めた. また, 先行研究の基礎再生産数に関する議論に対して, タイプ別再生産数の概念を利用してその意味に関する検討を進めた. 更にパーシステンスなどについて詳細に解析を行ない, 研究を進めた. これらの結果を詳細に検討し, まとめる作業を行ない, 論文の作成に着手した.
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今後の研究の推進方策 |
時間遅れ,吸収効果,免疫変数の3つの要素の,平衡点の安定性への影響についての研究においては,ある場合にはリアプノフ関数を用いて大域安定性のみが証明でき、ある場合には局所安定性のみを証明できるなど、全体のストーリーを組み立てるのが難しい, この点の解消を試み、論文作成に着手する. 空間拡散を取り入れた, ウイルス・免疫相互作用の数理モデルの解析においては, 液性免疫の場合と細胞性免疫の場合の両方において, 複数ウイルス株数理モデルの解析を進める. これは今年度あまり進める事が出来なかったので、今後進める予定である. ウイルスダイナミクスに2つのルート,2つのコンパートメント,および齢構造を取り入れたモデルに関しては, 論文を作成中なので, その作業を進める. 局所安定性の解析に,Mathematica, Octave, Matlab を利用する方法については,時間遅れを取り入れないモデルに対しては,ある程度実用的に利用出来るよ うになったので,遅れのある微分方程式の解析法についても,数値実験も併せて研究に活用したいと考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの関係で,研究集会がほぼすべてリモートになった事と,県を越えた移動に制限があった事により,旅費を利用する事が出来なかった. また, オープンアクセスのジャーナルへの投稿料を支払う予定であったが, 論文作成が遅れた関係で支払いが次年度になってしまった. 次年度には論文の投稿料にあて, 研究成果の発表に役立てる予定である. また, 研究成果を発表するために旅費を使用する.
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