研究課題/領域番号 |
17K05367
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
増田 弘毅 九州大学, 数理学研究院, 教授 (10380669)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 非正規型疑似尤度解析 / 確率過程の推測 / 高頻度データ |
研究実績の概要 |
近年のデータ処理技術の進歩にともない,生命科学,信号処理,物理学,計量経済学,制御工学など多岐にわたる応用分野において高頻度時系列データが確保可能となってきた.現代の高頻度従属性データにはロングテールなどの多様な非正規性ノイズの存在が顕著であり,それらを適切に反映した統計モデリング理論の研究は喫緊の課題である.本研究では,正規分布ノイズでは捉えられない,複雑な非正規従属性構造の情報を効率良く抽出するための局所安定過程(Locally stable process: LSP)モデルの族を提案し,その推定・予測・評価を行うための統計推測理論体系の構築を目指している.LSPモデルは,トレンド構造,スケール(分散)構造,局所安定指数という3つの主要な特徴量を持ち,それぞれ,時間発展現象の緩やかな動き・傾向,変動尺度の空間状態への依存性,微小時間における変動の度合いを定量的に表現する役割を持つ. 本年度はとくに,LSPモデルのスケール構造の時間非一様性がモデルの識別不能性,したがってモデルの一種の非正則性を解消することを見出した.これにより,先行研究Brouste and Masuda (2018, SISP) のような(不可避的であるが)恣意的な収束率行列を導入する必要性がなくなり,統一的な推定精度評価法が実現される.結果として,本研究の主課題である「LSPの特性量の同時推測理論の開発」の基礎に関する新たな知見が得られたことになる.高頻度従属性データの複雑構造においてスケールの時間非一様性は自然な仮定であるため,当該基礎結果の実用上の意義は大きい.本結果により,多変量化やモデル評価基準の構成など,本研究目的に掲げた項目の質が軒並み底上げされると期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」で述べたスケール構造に伴う非退化性の解消は,当初予期していなかった研究成果である.この知見を踏まえ,これまで想定していたLSPモデルをより柔軟かつ扱いやすい回帰構造へ拡張しつつ,当初の研究目的に掲げた項目の研究を進めている.それらの項目複数に共通して関与する一つの軸として,トレンド構造およびスケール構造に,共変量過程(解析者入力による実験デザイン,時間変動する外生変数など)への依存性を許す「局所安定回帰モデル」の提案に至った.これまで主流であった局所正規近似の枠組みを外した高頻度従属性モデリングツールとして一つの標準を成すと期待される.漸近推測論の構築は目処が立っており,すでに,理論成果の一部を国際会議(2018年12月のCMStatistics)で発表済みである.現在漸近理論の基礎部分を執筆中であり,2019年度前半中の投稿を見込んでいる. 当初の研究目的の一項目である「非線形ラプラス疑似尤度推定の漸近理論の構築」についても,Alexei Kulik氏との共同研究が進んでいる.微分不可能な疑似尤度関数においてLSPモデルの非線形性を議論する過程で,モデルの遷移密度に関するさらなる精密評価が望まれることが明らかとなった.これは従来の理論ではカバーできない範疇にあったため,LSPモデルへの統計的応用も見据え,Kulik氏が局所安定ノイズで駆動される確率微分方程式モデルの分布の正則性の研究を行なった(arXiv:1808:06779).現在Kulik氏とともに,本研究課題への適用を進めている.
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今後の研究の推進方策 |
2019年度前半中の投稿を見据えつつ,局所安定回帰モデルの漸近推測に関する基礎研究成果を論文としてまとめ上げる.さらに,その結果を礎として複数の研究内容に取り組む. 局所安定回帰モデルの枠組みで局所安定指数の推定量を用いることで,トレンド構造およびスケール構造の選択基準の理論を構築する.エルゴード的な長期観測の場合も分けて考察し,提案する理論の明確かつ簡潔な体系化を行う.局所安定指数部分への推定量プラグインを介した,LSPモデルのトレンド構造およびスケール構造の統計的モデル評価指標の開発を考察する.ベイズ型情報量規準として,先行研究Eguchi and Masuda (2018, Bernoulli)のQBIC(Quasi-Bayesian Information Criterion)理論の適用可能性を見込んでおり,これを具体的考察対象とする.また,現在進行中の,LSPモデルに対する非線形ラプラス疑似尤度推定に関するKulik氏との共同研究をまとめ上げて投稿する. 多変量局所安定モデリングについて複数の方針を立てて考察を進めている.複数の駆動LSPレヴィ過程間の従属性の表現方法について状況分類して進めており,局所多変量等方型安定レビ過程を取り込むか,または,複数の独立ノイズをスケール行列で混合するのが自然な方向性であると考えている. 上述の局所安定回帰モデルの漸近理論に立脚して展開される応用内容として,統計的信号処理(推定,検出,信号数選択など)の基礎理論も併せて研究する.LSPモデルにおいては,非定常・非エルゴード的モデルの枠組みで統一的な分布論を展開できるのが大きな利点である.例えば,当該分野においてこれまでエルゴード性が本質的であった内容には新たな知見を投じることが可能となる.
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度に行うAlexey Kulik氏との共同研究打ち合わせのための渡航費・招聘費用,さらに本研究内容を種々の応用分野へ展開するべく海外の関連研究者と共同研究を行うための渡航費に充てる.
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