研究実績の概要 |
これまで本研究において,対称安定レヴィ過程の全パラメータの同時最適推測手法を与え,また,マルコフ型局所安定 (Locally stable: LS) モデル族の推定理論を構築した (それぞれBrouste and Masuda (2018), Masuda (2019)). 本年度は,これらの基礎的結果を改良発展させる理論研究に取り組んだ. まず,マルコフ型局所安定モデルを拡張し,さまざまな共変量を取り込める非エルゴード的LS回帰モデル族を提案した.まず,高頻度データモデルの推測において段階的推定は標準的であるが,LS回帰モデルのトレンド・スケールの段階的推定においては,変動指数の「閾値」,すなわち,それを境に推定量の漸近挙動が変わり得るような値が存在することを理論的に解明した.さらに,LS回帰モデルのトレンド・スケール構造の擬似ベイズ型情報量規準を導出し,そのモデル選択一致性を示した.これらの内容は,対角行列による規格化が可能なスケール構造 (CMStatistics 2018での講演内容) の仮定のもと,国際会議Dynstoch meeting (Delft) で報告された. 複数の共変量過程を取り込み可能な非定常オルンシュタイン-ウーレンベック型LS回帰モデルを提案し,その最小絶対偏差型回帰モデリングに取り組んだ.これは擬似スコア関数のマルチンゲール構造を正確に取り出せる基本的なモデル族であり,近似を前提とした非線形ラプラス型擬似尤度推定法(A. Kulikとの共同研究)と比べると,変動指数に制約が入らないという利点を持つ.また,本手法の計算負荷は局所安定型擬似最尤法のそれよりはるかに低い.先述のLS回帰モデルとあわせ,電力消費予測や時間非一様な成長曲線モデル,また非正規・非定常信号の統計解析など,幅広い分野への応用展開が見込める.
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