研究実績の概要 |
2年目に当たる平成30年度は、新たな2次元シリンダー上の確率分布の研究を行った。 Johnson and Wehrly (1978)は、周辺分布を自由にとることができる2次元シリンダー上の確率分布族を提案した。彼らの分布族は、確率変数変換により、2次元シリンダー上のコピュラとみなすことができる。彼らが提案した一般的な分布族において、実数上の周辺分布、円周上の周辺分布、コピュラ関数に適当な仮定をおくことにより、我々は2次元シリンダー上の確率分布を得た。そして、この分布について、以下の扱いやすい性質が成り立つことを明らかにした: (a) 確率密度関数を、積分や無限級数などを含まない陽な形で表わすことができる。(b) 実数値変数の周辺分布が実数上のコーシー分布、角度の変数の周辺分布が円周上のコーシー分布となる。(c) 実数値変数を与えたときの角度の変数の条件付分布が円周上のコーシー分布となり、角度の変数を与えたときの実数値変数の条件付分布が実数上のコーシー分布となる。(d) パラメータは5つあり、それぞれのパラメータの解釈が明確である。2つのパラメータは実数値変数の周辺分布の位置と尺度、2つのパラメータは角度の変数の周辺分布の位置と集中度、そしてもう1つのパラメータは変数間の関係の強さを調節する。(e) 2つの(0,1)上の一様乱数を用いて、得られた分布に従う2次元確率ベクトルを棄却なく1つ発生することができる。 上記の性質(a)-(e)は、Johnson and Wehrly (1978)による一般の分布族には成立せず、また、我々の知る限り、他の既存のシリンダー上の分布においても全てが成り立つものは存在しない。今回得られた分布は、その解析的な扱いやすさにより、シリンダー上のデータの統計解析において有用となると考えている。
|