研究課題/領域番号 |
17K05383
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
嶺重 慎 京都大学, 理学研究科, 教授 (70229780)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ブラックホール天文学 / ブラックホール成長 / X線天文学 / シミュレーション / 電波天文学 / 輻射流体力学 / 偏光・偏波 / アウトフロー |
研究実績の概要 |
本研究計画は、輻射流体効果を取り入れたシミュレーションを実行して、超臨界降着が産み出す輻射やガス噴出(アウトフロー)の特徴と、それが周囲へ与える影響を定量的に見積もってフィードバックの全貌を理論的に明らかにし、将来の観測に備えるものである。 1.超臨界降着流の輻射流体シミュレーション:(1)さまざまなブラックホール質量、降着率ごとに降着流およびそれが生み出すアウトフロー構造を系統的に調べてその全体傾向を明らかにした。結果をスリムディスクモデルと比較したところ、よい一致をみるものの大規模環流の影響により密度・速度構造が若干異なることがわかった。(2) 宇宙初期ブラックホールの成長を念頭に、10^3~10^6太陽質量のブラックホールに、ボンディ半径(パーセクスケール)からガスがどのような割合で降り積もっていくかをシミュレーションで調べた結果、2次元効果により超臨界降着が実現しうること、初期宇宙の巨大ブラックホール形成を説明しうることを実証した。(3)ガス降着流・噴出流からの偏波放射の輻射輸送計算コードを開発した。 2.ブラックホールに落ち込むガス:(1)ブラックホールに落ちこむガスからの輻射光度変動の一般相対論的モデルをたて、EHT(事象の地平面望遠鏡)による模擬観測を実行してどの程度の精度でブラックホールスピンが決定できるかを検証し論文にまとめた。(2)降着円盤上部にある変動X線源が円盤を照射したとき、どのような鉄ライン放射特性を生み出すかをランプポストモデルに則って計算したところ、このモデルでは観測の鉄ライン変動を説明できないことがわかった。 3.クランプ状アウトフロー:クランプ状アウトフローの3次元シミュレーションデータのフラクタル解析を実行し、中心部で均一な構造が、まず膜状(2次元)に分裂し、さらに膜が細かいひも状の断片(1.7次元)に分かれるようすが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
流体シミュレーション部分、特に多次元輻射(磁気)流体力学シミュレーション、偏光も含む輻射流体計算および落ち込むガスの一般相対論的計算においては共同研究者ほかのご尽力により多くの知見が得られた。当初計画以上の進捗といえる。一方で、バイナリーブラックホールについては、論文執筆にむけたまとめの議論の段階で止まっている。これらの点を総合的に判断し「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
超臨界降着にともなう輻射フィードバック効果、X線分光に向けたクランピーアウトフローの精密スペクトル線計算など、いずれも重要な課題であり、今後も粛々と研究を進める。一方でEHT(事象の地平面望遠鏡)によるブラックホールの撮像画像の公開(2019年4月10日)という極めて重要な観測的進展があったことを受け、その理論解釈や偏波画像の予言の研究も並行して重点的に進めることにした。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた国内出張が用務により行けなくなったため、出張を次年度に回した。連携研究者らとの成果まとめの出張に用いる予定である。
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