本研究計画は、輻射流体シミュレーションを実行して、超臨界降着が産み出す輻射やガス噴出(アウトフロー)の特徴とそれが周囲へ与える影響を定量的に見積もり、フィードバックの全貌を理論的に明らかにして将来の観測に備えるものである。 1.超臨界降着流の輻射流体シミュレーション:(1) ブラックホールへの大局的なガスの流れ込み過程を探る第一歩として、内側境界を従来の計算より1~2桁広げ、かつ内側の領域で、従来の(ブラックホール近傍まで解いた)計算結果を再現する境界条件を見いだした。それを新しく内側境界条件とすることで、従来の計算より2桁計算領域を広げた計算に成功した。(2) 前年度の宇宙初期ブラックホール成長の計算を、内側領域からの非等方的アウトフローを導入して行った。アウトフローが出る方向のガスを吹き飛ばされることにより、アウトフローが弱い角度からの降着流がより強まり超臨界降着流が起きやすくなることが分かった。これは巨大ブラックホールの超臨界成長説を支持する。 2.ブラックホールに落ち込むガスの模擬観測:ブラックホールに落ちこむガスリングからの輻射光度変動の一般相対論的モデルをたて、それをEHT(事象の地平面望遠鏡)による観測したとしてどの程度の精度でブラックホールスピンが決定できるかを調べた。結果は論文にまとめられレフェリーとの有意義なやりとりを経て出版に至った。 3.M87のEHT観測を念頭に、既存のGRMHDシミュレーションデータを元に、新しく作成した一般相対論的偏光輻射輸送計算コードを動かして予想される偏波マップを作成した。その結果、先行研究ではほとんど考慮されていなかった円偏波が、プラズマ中のファラデー変換により強められること、しかもそれは磁場構造につき本質的な情報をもって観測者に届くことを定量的に示した。結果を論文にまとめて出版した。
|