本研究は(1)前主系列段階である原始星の誕生段階の物理過程、および(2)主系列段階を離れ、星としての生涯の終焉を直前に迎えた晩期段階の星(老齢星)、すなわち赤色超巨星の星周領域を含む物理過程において、磁場はどの程度決定的な役割を果たすか、という問いに答えることを目標とした。それぞれについての主な成果は以下の通りである。 (1)について、星形成領域の具体例として、比較的近傍(距離140pc)のおうし座分子雲で孤立した高密度分子雲コア、L1521Fを対象とした。この分子雲コアを、サブミリ波帯の2波長、およびミリ波帯の偏波観測を含むデータを解析し、調査した。同天体の領域では、ほぼ南北に貫く大局的磁場が見られるが、この大局的磁場は、コア中心の重力収縮で誕生した原始星の進化と共に巻き込まれ、原始星付近では大局的磁場とほぼ垂直の方向を向き、磁場が原始星の成長に重要な役割を果たしていることを明らかにした。 (2)に関して、大質量星の最終段階である赤色超巨星の例としておおいぬ座VY星(VY CMa;距離約1140pc)と、その星周領域を調査した。赤色超巨星は肥大した半径を持つことから強い磁場は持たないと予測されていたが、これを覆し、少なくともVY CMa星、およびその星周領域(星からの半径530AU以内)は非常に強い磁場(100G以上)が存在することをゼーマン分裂の直接測定から明らかにすることに成功した。強い磁場は星周領域の性質に甚大な影響を及ぼしていること、その例として、通常は熱的励起輝線である基底振動状態(v=0)のSiOの回転遷移輝線でさえ、部分的に強いメーザー励起を起こしていることを明らかにした。 結論として、星の誕生段階において、および、星の晩期段階において、磁場は決定的に重要な役割を果たしていることを、観測と理論の両方から、示すことができた。
|