研究課題/領域番号 |
17K05393
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
佐藤 浩介 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (50453840)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | X線天文学 / 銀河団 / カロリメータ / 極低温検出器 |
研究実績の概要 |
2016年に打ち上げられたX線天文衛星「ひとみ(ASTRO-H)」は打ち上げ後は約1ヶ月のみの運用しかできなかったが、カロリメータ検出器(SXS)を用いた観測は、高精度撮像分光観測の威力を示した。私は、SXS検出器チームの中心メンバーとして、軌道上でのエネルギーや有効面積較正などに大きく貢献した。ペルセウス座銀河団の観測からの科学論文についても解析チームを主導し、ペルセウス座銀河団中心部で観測された共鳴散乱効果を、高階電離した鉄の微細構造を用いて初めて明らかにし、日本天文学会での報告、及びtop corresponding authorとして日本天文学会誌に投稿し採択された。共鳴散乱を示すために実際の観測データを光学的に薄いプラズマモデルによる不定性をできるだけ減らすなどの工夫も行なった。観測で得られるエネルギースペクトルは銀河団成分を視線方向に積分したものであるので、銀河団中心部での共鳴散乱を見積もるためには、数値シミュレーションを用いた比較が必要である。私はシミュレータの中に銀河団を構築し、SXSの応答関数も考慮することで、シミュレーション結果はカロリメータによる実際の観測結果を非常によく再現することに成功した。同時に、私はペルセウス座銀河団の温度やアバンダンスを報告した学術論文の作成にも著者として参加し、解析方法や議論に貢献した。 実験的研究であるが、年度途中で埼玉大学に移動したため、埼玉大学での冷凍機立ち上げから行なった。宇宙科学研究所や立教大学と協力し、パルスチューブ冷凍機と断熱消磁冷凍機を組み合わせ、極低温環境を構築することができた。また、誘電体カロリメータと同様の原理からマイクロ波読み出しの為の設計検討を行った。これは将来の衛星搭載において、多くの画素を少ない配線数で読み出すことができ、宇宙応用において大きなアドバンテージをもつ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
X線天文衛星「ひとみ(ASTRO-H)」搭載のカロリメータ検出器を用いたペルセウス座銀河団の観測データの解析的研究においては、銀河団中心部の共鳴散乱効果を観測されたスペクトルと数値シミュレーションとを比較し、当初の予定よりも早く平成29年度に論文としてまとめあげることができ、日本天文学会誌に採択された。 一方で、埼玉大学への異動に伴い、カロリメータ実験に関しては、新たに極低温冷凍機の立ち上げを行い、極低温冷凍機環境の構築の目処はついたものの、当初の高周波回路の実験は遅れている。しかし今後、宇宙化学研究所などとマイクロ波読み出し回路などの開発で協力していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
「ひとみ(ASTRO-H」搭載のカロリメータ検出器で観測されたペルセウス座銀河団のデータ解析を進め、銀河団の元素アバンダンスなどの分布や量を超新星爆発のモデル等と比較しつつ、今後は研究を進める予定である。 実験的研究については、開発をめざしている高周波回路は将来衛星の搭載を目指しており、宇宙科学研究所などとの連携を深めている。同時に私はカロリメータ搭載の将来衛星開発チームの代表として、衛星の科学目標の作成や検出器チームの牽引を行なっている。海外の研究者とも協力や議論を行いながら、将来の科学衛星提案に向けて開発を行なって行く予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ予定額を使用したが、少額の差異分は次年度の実験消耗品等の購入に使用する予定である。
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