メーザー源時間変動と大質量原始星への質量降着の解明に向けた国際共同研究

2018 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 17K05398
• 研究機関: 国立天文台
• 研究代表者: 廣田 朋也 国立天文台, 水沢VLBI観測所, 助教 (10325764)
• 研究期間 (年度): 2017-04-01 – 2020-03-31
• キーワード: 電波天文学 / 大質量星形成 / メーザー / 超長基線電波干渉計 / タイムドメイン天文学 / アルマ(ALMA)

研究実績の概要

本研究は、超長基線電波干渉計VLBIネットワークVERA、国内VLBIネットワークJVN、日韓VLBI ネットワークKaVA、アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計ALMAを用いた国際共同研究により、水メーザーやメタノールメーザーの時間変動現象と大質量原始星への質量降着現象の総合的な理解を目指している。
研究計画２年目の本年度は、KaVAによるメーザー天体大規模サーベイ観測が順調に進んでいる。本年度は自動解析のためのプログラムを整備することに集中し、これを用いて全観測データの解析処理を完了した。現在は最初の論文を大学院生と共に執筆中である。イタリア、タイの研究グループとはそれぞれ2018年10月、2019年1月に現地へ出張し、研究協力者と共にS255、およびW49Nの各天体について解析を進めている。また、その際には、セミナーや国際学会での成果報告も行っている。アメリカの研究協力者を中心としたNGC6334の観測結果は共著論文(Brogan et al. 2018)として出版され、複数メーザーの時間変動の振る舞いとその差異について示唆が得られつつある。
本研究初年度に採択されたALMAによる共同利用観測(サイクル５)は一部しか行われなかったため、他の天体については2018年4月に観測提案(サイクル6)を再提出した。その結果、提案は最優先課題として採択され、現在は観測の割り当てを待っている。最終年度内には全観測データがそろう見込みである。
初年度に発足した国際研究ネットワーク"Maser Monitoring Organization (M2O)"による観測の一環で、国立天文台の研究協力者が2019年1月に新たなメーザー天体G358の増光を発見した。M2Oチーム内のメールで情報交換を行い、各観測所でメーザー時間変動の観測や新メーザー輝線の発見、赤外線など多波長観測が進められている。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

当初計画で立案したように、本研究では研究代表者が中心となって国際的な共同研究のネットワークを構築し、メーザー天体の時間変動と大質量星形成活動の関係を明らかにすることを目指している。初年度に国際研究会"Internatioanl Astronomical Union Symposium 336: Astrophysical Masers"（2017年9月、イタリア）で発足した国際共同研究のネットワークM2Oは定常的な情報交換が進み、本年度も新たなメーザー天体G358の増光を発見するという成果を挙げている。本年度後半からは、M2Oに参加するポスドク研究者(Ross Burns)が新たに国立天文台に着任し、本研究代表者が受け入れ教員となっている。そのため、M2Oでの議論の取りまとめや観測計画立案、データ解析が効率よく進む環境が整えられている。また、本研究代表者とタイやイタリアの研究グループの定常的な交流も進み、論文化が進められている。これらの出版計画はやや遅れているものの、アメリカの研究協力者を中心としたNGC6334の増光については、共著での論文出版がなされている(Brogan et al. 2018)。さらに、将来の研究計画立案のための議論やホワイトペーパー作成も行なわれている(Hunter et al. 2018)。KaVAでの観測は順調に進み、また、ALMAによる新たな観測提案の採択も決まり、本研究期間内にデータがそろう見込みである。
以上により、本研究は当初計画通り順調に進展していると判断する。

今後の研究の推進方策

本研究最終年度は、これまでに得られた全データの解析と論文化を進める。特に、本研究2年目に着任したM2Oにも参加するポスドク研究者(Ross Burns)は議論の取りまとめや観測計画立案、データ解析で中心的な役割を果たしており、多くの天体で得られたデータの総合的な解釈を共同して進める計画である。このために、本研究最終年度内には、M2Oメンバーで日本国内、あるいは参加者の多いヨーロッパにおいて国際研究会を開催し、各グループの持つデータを付き合わせた議論、理論家も交えた観測データの解釈を進めることを計画している。
また、本年度内に、M2Oの共同研究によって発見されたG358など時間変動するメーザー天体について、VERAによる距離計測のためのモニター観測を開始する。本研究期間内には距離計測は完了しないものの、将来的に天体の高精度な距離を用いた物理量の推定(光度、サイズ、質量など)の議論では必須であるため、本研究の一環として観測を提案する。M2Oネットワークによるメーザー天体の時間変動モニターについても継続し、本研究期間内に新たなメーザー天体の増光が確認された際にはVLBIによる即時観測、ALMAなどへの緊急観測の提案を進める。

次年度使用額が生じた理由

本研究２年目は、観測局のハードディスクに余裕があったため、物品費の使用額が計画よりも少なくても十分な研究体制と整えることが可能であった。そのために、経費に余裕が生じている。
次年度使用額の計画としては、本研究最終年度の研究成果取りまとめを目的とした研究会の開催補助、あるいはそのための参加旅費として用いる計画である。また、本研究期間内に得られた全データのバックアップや研究者間でのデータ共有のための少量のハードディスク、研究成果出版に必要なデータプロット用ソフトウェアなどの購入も計画している。

研究成果

• [国際共同研究] NARIT(タイ)
  • 国名: タイ
  • 外国機関名: NARIT
• [国際共同研究] Max Planck Institute for Radio Astronomy(ドイツ)
  • 国名: ドイツ
  • 外国機関名: Max Planck Institute for Radio Astronomy
• [国際共同研究] Arcetri Observatory(イタリア)
  • 国名: イタリア
  • 外国機関名: Arcetri Observatory
• [国際共同研究] NRAO/UC Berkeley(米国)
  • 国名: 米国
  • 外国機関名: NRAO/UC Berkeley
• [国際共同研究] KASI/Kyung Hee Unversity(韓国)
  • 国名: 韓国
  • 外国機関名: KASI/Kyung Hee Unversity
• [国際共同研究]
  • 他の国数: 8
• [雑誌論文] Extremely High Excitation SiO Lines in Disk-Out ow System in Orion Source I (2019)
  • 著者名/発表者名: Kim, M. K., Hirota, T., Machida, M. N., Matsushita, Y., Motogi, K., Matsumoto, N., Burns, R. A., Honma, M.,
  • 雑誌名: The Astrophysical Journal 巻: 872 ページ: 64
  • DOI: 10.3847/1538-4357/aafb6b
  • 査読あり
• [雑誌論文] Recent progress in high-mass star-formation studies with ALMA (2018)
  • 著者名/発表者名: Hirota Tomoya
  • 雑誌名: Publications of the Korean Astronomical Society 巻: 33 ページ: 21-30
  • DOI: 10.5303/PKAS.2018.33.2.021
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] "ALMA Observations of the IRDC Clump G34.43+00.24 MM3: Complex Organic and Deuterated Molecules (2018)
  • 著者名/発表者名: Sakai., T., Yanagida, T., Furuya, K., Aikawa, T., Sanhueza, P., Sakai., N., Hirota, T., Jackson, J. M., Yamamoto, S.,
  • 雑誌名: The Astrophysical Journal 巻: 857 ページ: 35
  • DOI: 10.3847/1538-4357/aaadfd
  • 査読あり / 国際共著
• [雑誌論文] "The Difference in Abundances between N-bearing and O-bearing Species in High-Mass Star-Forming Regions (2018)
  • 著者名/発表者名: Suzuki, T., Ohishi, M., Saito, M., Hirota, T., Majumdar, L., Wakelam, V.
  • 雑誌名: The Astrophysical Journal Supplement Series 巻: 237 ページ: 3
  • DOI: 10.3847/1538-4365/aac8db
  • 査読あり / 国際共著
• [雑誌論文] An Expanded Gas-Grain Model for Interstellar Glycine (2018)
  • 著者名/発表者名: Suzuki, T., Ohishi, M., Saito, M., Hirota, T., Majumdar, L., Wakelam, V.
  • 雑誌名: The Astrophysical Journal 巻: 865 ページ: 51
  • DOI: 10.3847/1538-4357/aad087
  • 査読あり / 国際共著
• [雑誌論文] "Chemical Diversity in Three Hot Cores associated with the 6.7 GHz CH3OH Masers (2018)
  • 著者名/発表者名: Taniguchi, K., Saito, M., Majumdar, L., Shimoikura, T., Dobashi, K., Ozeki, H., Nakamura, F., Hirota, T., Minamidani, T., Miyamoto, Y., Kaneko, H.
  • 雑誌名: The Astrophysical Journal 巻: 866 ページ: 150
  • DOI: 10.3847/1538-4357/aade97
  • 査読あり
• [雑誌論文] "The Extraordinary Outburst in the Massive Protostellar System NGC 6334I-MM1: Flaring of the Water Masers in a North-South Bipolar Out ow Driven by MM1B (2018)
  • 著者名/発表者名: Brogan, C. L., Hunter, T. R., Cyganowski, C. J., Chibueze, J. O., Friesen, R. K., Hirota, T., MacLeod, G. C., McGuire, B. A., Sobolev, A. M.
  • 雑誌名: The Astrophysical Journal 巻: 866 ページ: 87
  • DOI: 10.3847/1538-4357/aae151
  • 査読あり / 国際共著
• [雑誌論文] Compressed magnetic field in the magnetically-regulated global collapsing clump of G9.62+0.19 (2018)
  • 著者名/発表者名: Liu, T., Kim, K. T., Liu, S. -Y., Juvela, M., Zhang, Q., Wu, Y., Li, P. S., Parsons, H., Soam, A., Goldsmith, P. F., Su, Y. -N., Tatematsu, K., Qin, S. L., Garay, G., Hirota, T., Wouterloot, J., Chen, H. -R., Evans, N. J., II, Graves, S., Kang, S. -J., Li, D., Mardones, D., Rawlings, M. G., Ren, Z., Wang, K.
  • 雑誌名: Astrophysical Journal Letters 巻: 869 ページ: L5
  • DOI: 10.3847/2041-8213/aaf19e
  • 査読あり / 国際共著
• [雑誌論文] "Science with a Next-Generation Very Large Array: Understanding Massive Star Formation through Maser Imaging (2018)
  • 著者名/発表者名: Hunter, T. R., Brogan, C. L., Bartkiewicz, A., Chibueze, J. O., Cyganowski, C. J., Hirota, T., MacLeod, G. C., Sanna, A., Torrelles, J. M.
  • 雑誌名: ASP Conference Series Monograph 巻: 7 ページ: 321-331
  • オープンアクセス / 国際共著
• [学会発表] High resolution observational studies of star-formation (2019)
  • 著者名/発表者名: Hirota Tomoya
  • 学会等名: Special Colloquium on Radio Astronomy
  • 国際学会 / 招待講演
• [学会発表] "High-frequency/High-resolution observations of High-mass young stellar objects with ALMA and VLBI (2019)
  • 著者名/発表者名: Hirota Tomoya
  • 学会等名: Star formation with ALMA: Evolution from molecular clouds to protostars
  • 国際学会 / 招待講演
• [学会発表] Recent progress in high-mass star-formation studies (2018)
  • 著者名/発表者名: Hirota Tomoya
  • 学会等名: The Cosmic Cycle of Dust and Gas in the Galaxy: From Old to Young Stars
  • 国際学会 / 招待講演
• [学会発表] KaVA Large Proposal for High-Mass Star-Formation Studies with Multiple Masers (2018)
  • 著者名/発表者名: Hirota Tomoya
  • 学会等名: The 14th European VLBI Network Symposium and EVN Users Meeting
  • 国際学会
• [学会発表] Status of KaVA SFRs WG (2018)
  • 著者名/発表者名: Hirota Tomoya
  • 学会等名: EAST ASIAN VLBI WORKSHOP 2018
  • 国際学会
• [備考] KaVA Large Program
  • URL: https://radio.kasi.re.kr/kava/large_programs.php#sh3