研究課題/領域番号 |
17K05405
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
百武 慶文 茨城大学, 理工学研究科(理学野), 准教授 (70432466)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 超弦理論 / ブラックホール / インフレーション宇宙 |
研究実績の概要 |
超弦理論は重力の量子効果を記述できる理論であり、ブラックホールや初期宇宙において未解明の物理現象に迫ることができるものである。今年度の研究は、超弦理論で実現されるブラックホールの量子論的性質についての解析、および初期宇宙における宇宙サイズのインフレーション的加速膨張の起源の探求、について成果を挙げた。 超弦理論は10次元時空で構成される理論であり、質量と電荷をもつブラックホール解が存在する。十分遠方の観測者からはブラックホールはイベントホライズンの内側に隠されており、その内部構造を見ることはできない。そして、この内部構造を知るためには重力の量子効果を取り入れて考えることが重要である。今年度の研究では、このブラックホールの双対な記述を量子力学で行った。具体的にはブラックホールの微視的な状態は複数個の粒子(D0-branes)で記述されると考え、その複数個の粒子が球状の束縛状態(fuzzy sphere)を構成していると考えた。古典的にはこの球状の束縛状態は半径が時間変化しており、その量子論的揺らぎを解析すると、十分遠方ではブラックホールと同じ引力を発生させることが解明できた。今後はこの系を数値的に解析し、双対対応が正しいことを検証することが課題である。 さらに、超弦理論の量子重力効果(リーマン曲率の高次項)は初期宇宙で重要となることも指摘した。初期宇宙では宇宙の半径はプランクスケール程度に小さくなり、スカラー曲率は大きくなる。すると、量子重力効果が顕著となり、この効果によってインフレーション的加速膨張が実現されることを示した。加速膨張が続いてスカラー曲率が小さくなると、量子重力効果は無視できるようになり、インフレーション的加速膨張は自然に終わる。これは高次補正項が存在する超弦理論にとってユニバーサルな現象であることを提唱した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
超弦理論の量子効果について、ブラックホールとインフレーション宇宙の両分野についてインパクトのある研究成果を挙げることができた。すでにいくつかの大学でセミナーにも呼ばれたが、今後はさらに研究成果をアピールする必要があると考える。一方で、超弦理論の量子効果のさらなる理解に向けては今後さらに推進する必要があると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
ブラックホールの量子論的性質をさらに研究するために、D0-branes以外のブラックホール的物体についても研究を推進していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた国際会議が国内開催であったため、次年度に繰り越した。次年度の国際会議はオランダで開催されるので、その分の旅費として使用する予定である。
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