近年、LIGOによるブラックホール連星からの重力波の直接観測やイベントホライゾン望遠鏡による超巨大ブラックホールの事象の地平線の近くの撮影の成功などにより、ブラックホールの事象の地平線の観測的理解が進みつつある。そこで、ブラックホールの事象の地平線のあたりにおける超弦理論特有の現象が理論的に考えられるかは重要な問題である。通常の次元解析によると、LIGOやイベントホライゾン望遠鏡で観測されているブラックホールの事象の地平線のあたりでは、時空間の曲率がString Scaleよりも小さいので、超弦理論特有の効果は見られないように思われる。しかし、スタンフォード大学のEva Silversteinと彼女の学生であったMatthew Dodelsonは、そのような状況でも超弦理論特有の現象があり得ることを指摘していた。そこで、大栗は、Dodelsonをカブリ数物連携宇宙研究機構のポストドクトラル・フェローに雇用し、彼とともに、ブラックホールの事象の地平線のあたりの現象を超弦理論のホログラフィー原理を使って解明するプロジェクトを行っている。その準備として、当該年度には、純粋な反ドジッター空間における類似の現象を考え、それが超弦理論の効果でどのような変更を受けるかを解明した。具体的には、反ドジッター空間における粒子の相関関数に見られる「ランダウ型特異点」が、超弦理論の効果でどのように解消されるかを定量的に明らかにした。また、その研究の過程で、共形場の理論の相関関数のメリン変換に対する普遍的な不等式を導出した。大栗とDodelsonは、この研究成果を発展させ、ブラックホールの事象の地平線のあたりの超弦理論的効果の研究を推進しており、その成果についても近く発表の予定である
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